【クルマ三昧】ピンとこないトヨタ「営業利益2.5兆円」のスゴさ 簡単に例えると…
興味深い“矛盾”
「トヨタ売上高 30兆円超」-。こんな見出しが産経新聞を飾った。2019年3月期連結決算で、売上高が前期比2.9%増の30兆2256億円に届いた。本業のもうけを示す営業利益は2.8%増の2兆4675億円に達したというのだ。日本企業で初の快挙である。
いやはやなんとも、日本人として日本の企業の躍進は悪い気はしない。日本の経済的な支えとして頼もしいかぎり。だが、約2兆5000億円という数字にいまひとつリアリティがわかない。商社や銀行にお勤めの方や、日々株の売買を繰り返しているトレーダーの方はともかく、庶民の感覚の僕にはその数字の重みが理解できないのである。
「1円の円安が500億円の利益を生み出す」。そう聞くことも少なくない。だけど、それだって現実感は薄い。円の最小単位である1円の価値に対して僕は鈍感である。154円のキュウリと155円のキュウリで購入を悩むことは少ない。一方で、数の論理で動く大企業にとって、1円の為替増減は死活問題だ。約9万人の社員がネジを一本一本ていねいに絞めながら約1000万台のクルマを売るトヨタにとっては気になる1円の変動なのである。庶民が1円に無頓着で、大企業が1円に神経を尖らせる。その矛盾が興味深い。
ともあれ、実際に約2兆5000億円という金は、どれだけのものなのだろうか。引き出しの中から引っ張り出した電卓で計算しようとしたら、桁数が足りずに驚いた。「2,500,000,000,000」。13桁の数字を表示させなければならないのに、悲しいことに僕のは10桁表示計だったのである。
そこで質問です。もしあなたが新車のトヨタ86を毎日購入しつづけたとします。365日ずっと。来る日も来る日も新車を買いつづけたとします。すると何年で2兆5000億円を使い切ることができるだろうか。
あまり計算せずに、イメージで回答してみてください。5年? 10年? 50年? もう確実に命がついえているであろう100年? 仮にトヨタ86が1台250万円だとする。
10台で2500万円
100台で2億5000万円
1000台で25億円
1万台で250億円
10万台で2500億円
100万台で2兆5000億円
100万台も購入できるのである。つまりそれは、トヨタ86が1日で1台増えていくことでもある。
10日で10台
100日で100台
1年で365台
10年で3650台
100年で3万6500台
1000年で36万5000台
3000年で109万5000台
つまり、答えは「3000年」である。約3000年間という永遠に近い月日をずっと購入しつづけないと、2兆5000億円は使い切れないというわけだ。
トヨタは毎年稼ぎつづけている
今年は西暦2019年である。紀元前1000年から購入しつづけたとするのなら、ようやく今年になって使い切れるという計算でもある。
紀元前1000年の日本は、縄文時代晩期。日本人は縄文式土器を造り、竪穴式住居に住んでいた。弓矢で狩猟し、海に潜って捕らえた貝や魚を口にして生活していた。そんな太古から、宇宙で人が過ごしているという現代までの気の遠くなるほどの毎日ずっとトヨタ86を購入しつづけることができる金を、トヨタは毎年稼ぎつづけているのである。恐ろしやトヨタ。頼もしきトヨタである。
とまあ、僕にとってはあまりに天文学的な数字であるし、10桁表示の電卓では間違いがあるかもしれない。そこはお許しいただきたい。夏の夜長に、たわいもない計算をしてみました…。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。
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