中小企業へのエール

日本の技術戦略 特許、標準、独禁法の三角形を常に意識

 東京大学の先生と久しぶりに知的な話で盛り上がった。内容は「日本の技術戦略」についてだ。この先生は今から30年以上も前、日本家電業界が最も強かった時代に、欧米にいじめられて、それを契機に特許で攻め、標準で守り、ビジネスを成功させてきた方だ。(旭川大学客員教授・増山壽一)

 日本の家庭用ビデオデッキは、ベータ方式、VHS方式と2つの規格が混在していた時代があった。映像を記録・保存する録画機器は、文化の破壊にもつながりかねないと、欧州が猛烈に日本たたきをし、フランス政府は日本製ビデオデッキの輸出を、ポワティエの税関に限定するという露骨な嫌がらせを平気でやっていた時代であった。

 その後、日本メーカーは特許を武器に、欧米メーカーと交渉し、VHS方式に統一という標準化に成功し、やがて日本の技術は、携帯電話、太陽光発電、自動車のハイブリッド技術など数々の分野で世界を牽引(けんいん)していった。

 しかし、研究開発に注力して、特許をどうビジネスの武器にするかという戦略に遅れ、標準化も、日本独自の標準化に固執して、世界の標準化で積極的な役割を果たしてこなかった結果、せっかく獲得した特許技術が無価値化してしまうそんなことの繰り返しだったのだ。

 今、私が注目し努力している水素技術だけはその二の舞いをさせたくない。技術を磨き、特許化してそれを武器に世界で戦う。しかしその際は、外国のパートナーと時には大胆に連携して獲得すれば鬼に金棒だ。または、ライバル企業が同じような行動を取ろうとしている際に、その標準化を徹底的に邪魔して作らせない。こんなしたたかな戦略が必要なのだ。例えて言うと「囲碁の戦略」と同じだ。

 日本独自の優秀な技術を世界標準にと言っているだけでは、これまでと同じ道を歩んでしまう。しかし、ビジネスは絶好調になったその時こそが危ない。それは独占禁止法の存在だ。

 世界の独占禁止当局から、あまりにも強すぎるゆえに私的独占、不公平な取引方法などと差し止め命令が出る恐れもある。この段階にまで至れば特許を開放して、次の技術開発をし、標準づくりに専念していかなければならない。先般トヨタ自動車がハイブリッド技術を基本開放すると発表したように。囲碁も置く場所がなくなれば場を変える必要がある。特許と標準、独占禁止法という三角形を常に頭に入れてビジネス経営をする時代になっている。

【プロフィル】増山壽一

 ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。環境省特別参与。著書「AI(愛)ある自頭を持つ!」(産経新聞出版)。56歳。