高論卓説

ファーウェイ機器の禁輸 5G特許多数保持、対応悩ましい日本勢

 トランプ米大統領は、5月に米国企業による非米国企業の通信機器使用を禁止する大統領令に署名した。米商務省も輸出管理規則に基づき中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置を発したとされている。これにより、米国企業は、ファーウェイの通信機器を米国で使用できず、ファーウェイに対して部品供給などができないことになった。

 ファーウェイが、次世代通信規格「5G」の基地局設備を各国に売り込んでいる最中の出来事であった。もっとも今月に入り、ファーウェイ製品の禁輸を緩和するという報道もなされているが、低機能のものに限定されるような報道もなされており、先行きは不透明である。

 特許屋からすると、米国は随分と踏み切ったものだと思っていた。つまり通常は、特許権者は取引先の会社には権利行使をしない。逆にいえば、特許権者からしてみれば取引先の会社が取引先でなくなれば、権利行使を控える理由はない。

 ファーウェイは、世界でも有数の保有特許件数を誇る企業であるが、米国で取引ができないとなると権利行使に踏み切るのではないか。案の定、6月にファーウェイが米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズに対し、10億円を超えるライセンス料を要求していると報じられた。

 しかし、同月米国で、「政府の監視対象となっている企業が国内での特許について、特許侵害での提訴も含めた法による救済措置を求めることを禁止する」法案が提出されたと報じられた。

 もっとも、ファーウェイからすれば、特許管理会社「パテント・トロール(特許の妖怪)」などの企業に特許を譲渡し、そのトロールに権利行使させるという手もあるから、功を奏さないように思える。

 他方で、日本でも三大通信キャリアに加え、楽天も5Gの通信キャリアとしてのビジネスを実施することが発表されている。これらの会社の一部は、当初ファーウェイの基地局を利用すると予想されていたが、米国の影響により、とりやめる可能性がある。

 しかし、日本で米国にならってファーウェイ製品の採用をやめれば、それこそファーウェイから特許のカウンターが各事業者に飛んでくるであろう。ファーウェイは、日本でビジネスができないのであれば、それこそ怖いものなしだ。

 かといって、日本で米国のように特許侵害などの救済措置を禁止できるかといったら、各企業が単にファーウェイの製品の使用を自粛しているだけの状況では、救済措置を禁じる法律を制定する理由がないため難しいだろう。

 また、日本の通信事業者がファーウェイの権利行使に対して特許的に何か防御措置を講じられるかというと、極めて難しいであろう。ファーウェイは日本でも多数の特許を保有しており、そのうち5Gに関する特許がどの程度あるかは調査していないが、それでもその全てを無効にするのは困難であろう。

 やれることがあるとすれば、ファーウェイ製品の採用を中止するのかしないのかという判断に当たって、特許リスクを精査することである。その上で事業判断に踏み込むべきである。また、ライセンス料を支払わなければならないとなると、最終的にユーザーの通信料金に反映されることになるであろう。ファーウェイの問題は、実はわれわれ国民生活と切っても切り離せない問題なのである。

【プロフィル】溝田宗司

 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。19年2月、MASSパートナーズ法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。