「三日三月三年」我慢させてはいけない
適材適所見極めへ「違和感」に耳傾けよ
「三日三月三年」「三日坊主」「石の上にも三年」。耐えて努力すれば成果が出る、一人前になれるという意味で使われることが多い教訓だ。今年度も3カ月が経過した。4月から入社したり異動してきたりした人も、仕事を覚えて慣れてきた頃だろう。中には新しい仕事に違和感を覚えている人もいるだろう。その仕事が合わないと思っている人もいるかもしれない。
上司にそんな思いを打ち明けても、返ってくるのは、冒頭の教訓に続く「辛抱しろ」「あきらめるな」「がんばれ」というフレーズだ。「文句を言うな」「みんながんばっている」という言葉が加わることも多い。
果たして、「三日三月三年」、歯を食いしばって、努力し続けることは、企業が持続的成長を実現するために、あるべき姿なのだろうか。私にはそうは思えない。ひたすら努力するだけでは、個人の成長も、ひいては企業の成長も限界的だ。
仕事をしていて違和感を覚えたり、苦痛を感じたりしても、たいていのビジネスパーソンは、それは感じてはいけないことなので、我慢しようとする。部下が仕事に違和感を覚えて申告してくることは望ましくないと思う上司は多く、部下の申し出を否定して忍耐を強要してしまう。それが間違いの元なのだ。
なぜならば、違和感や抵抗感にこそ、仕事の仕方や進め方を改善するためのヒントがあるからだ。むしろ、部下が申し出てきたら、決して否定しないで、逆に歓迎して、どのやり方が気になるのか、何のプロセスに抵抗感があるのか見極めることが大事だと言いたい。
このように申し上げると、「部下よりも経験豊富な上司の方が内容やプロセスを分かっているので、上司が判断して指示すればよい」「部下は甘えて言っているだけなので、それを聞いてしまうと、マネジメントができない」という上司からの反応に接することが多い。
しかし、その仕事に直面して手足を動かしているのは、その部下本人なのだ。現に仕事をしている部下が違和感や抵抗感を覚えているのだから、それを直視しないでどうすると言うのだ。違和感や抵抗感を聞いてこそ、それをふまえたリーダーシップを発揮することができ、部下を巻き込めることを忘れていないか。
20年来ビジネススキル演習を実施し、企業をサポートしてきた経験をふまえると、違和感や抵抗感を覚えるケースは、仕事をする際のモチベーションファクター(意欲が高まる要素)と自分の自然体のモチベーションファクターにギャップがある場合がほとんどだ。
私はモチベーションファクターを牽引(けんいん)志向と調和志向に分けている。肉食系と草食系、狩猟型と農耕型と捉えればイメージを持ちやすい。例えば、周囲の意見をよく聞いてリスクを最小限にしていくことで意欲が高まる調和志向のモチベーションファクターの持ち主が、他の部署の意見は聞かず独自の考えでリスクを怖がらずにチャレンジしなければならなくなったら、ストレスを覚えて、違和感や抵抗感を覚えるのは当たり前だ。
仕事と自分のモチベーションファクターにギャップを感じたら、自分のモチベーションファクターの発揮の仕方を変えるか、仕事のモチベーションファクターに合致している人と組むか、いよいよ最後は担当する仕事を変えればよい。適材適所とは仕事と自分のモチベーションファクターを一致させるという意味で、「三日三月三年」は、モチベーションファクターの不一致を見極めるために適当な期間だと私は言いたい。
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【プロフィル】山口博
やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役、慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。