【ブランドウォッチング】まさに花王ルネッサンス! 「アタックZERO」は横綱の乾坤一擲

 
花王のホームページから
花王のホームページから

 皆さん初めまして。大手広告代理店で様々なクライアントの商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に関わってきた筆者が、独自のブランディング視点で今話題の商品、サービスを紹介します。

 「アタック」のDNAは、革新のDNA

 せっかくの第1回なので、パッケージプロダクト界の押しも押されもせぬ“横綱”花王にして、洗濯用洗剤という大定番カテゴリーの新製品をご紹介したいと思います。

 「洗濯用洗剤」において生活者が商品を選ぶ第1基準(マーケティング用語としては、「第1クライテリア」などとカッコよく呼んだりしますが)は、間違いなく「洗浄力」でしょう。でもこの洗浄力という代物、実験室でならばいざ知らず、日常のお洗濯シーンにおいて旧製品との差異や競合商品との違いなど、なかなか目に見えて分かるものではありません。仮に、洗浄力が劣っているとハッキリ感じられる製品があったとすれば一瞬でシェアを落として棚から消えてしまうことでしょう。つまり、逆説的に言えば一般に売られている洗剤には、洗浄力の差など認識できるレベルでは存在しないのではないでしょうか。

 それぐらい効用の違いが判別しづらい製品であるがゆえに、洗剤会社は新製品を広告やパッケージで一生懸命(少なくとも研究所レベルでは確認されたであろう、旧製品や競合商品との差異を)アピールするわけです。

 しかし、毎年のように微差での改良新発売を余儀なくされる洗濯用洗剤の世界にも、歴史的には何度か革新の瞬間がありました。

 それが、1987年に世界初のコンパクト洗剤として「わずかスプーン1杯で驚きの白さに」というキャッチフレーズで発売された「アタック」なのです。家の洗濯機の側に、大きな箱に入った粉末洗剤がある風景が当たり前だった時代を知る読者も多いかと思います。「バイオ酵素」(アルカリセルラーゼ)が配合され、従来の1/4の量で強力な洗浄力を実現したアタックはパッケージ自体が驚くほど小さく、まさにゲームチェンジャーでした。発売当初は大箱時代の感覚でどうしても洗剤を入れすぎる人が多く「スプーン1杯で汚れ落ちは十分です」と注意書きをせざるを得なかったというのも革新の証でしょう。1995年にはさらにコンパクトに進化し、「液体アタック」を発売するなど、30年以上もの間トップシェアを独走しています。

 革新性を表現する、緑のパッケージ 

 そしてアタックと言えば緑のパッケージ。アタックが発売された当時、従来の大箱洗濯用洗剤が主に「洗浄力」をイメージさせる、白や青系のパッケージカラーであったことに対し、ハッキリと違うベースカラーを用いることは革新性を表現するものでした。

 汚れを落とす表現として黄色や赤系色は使いにくい中で「バイオ酵素」をイメージした緑の選択だったと思いますが、当時としては大胆なカラーリングだったはずです。しかし今やアタックの緑こそが、洗濯用洗剤の定番カラーとなっていると言っても過言ではないでしょう。

 ユーザーの高齢化が課題

 好事魔多し。トップシェア街道をひた走るアタックも、世代別でのシェアを見ると、若い年代層で競合の影がチラツキ始めているようです。若干古くなりますが、洗濯についての@niftyの調査(2017年9月、有効回答数2714件)では、洗濯用洗剤の人気ランキングでアタックが全年代を通じ1位となっていますが、特筆すべきは年代別の30代以下でのランキング。1位「アタック(花王)」35.9%、2位「トップ(ライオン)」32.8%とその差はわずか3.1ポイントで肉薄していることです。

 まだまだ50代以上については盤石のシェアで、ロイヤリティーの高さがうかがえますので、アタック革命の衝撃を肌で感じた層は揺るがなさそうです。しかし昭和は遠くなりにけり。若い世代にはアタックの神通力が通じにくくなっていることが分かります。

 ブランドの若返りという難題

 成功したブランドであればあるほどロイヤルユーザーが多く、ユーザーの若返りは簡単ではありません。自動車で言えば、メルセデスベンツなども近年取り組んできた課題です。短兵急な変化をしてしまうと、大事にしたいコアファン層の期待を裏切りかねません。

 かと言って、別ブランドに若い層を振り分けたままでは、トップシェアブランドという大名跡のユーザーはどんどん高齢化してしまい、蓄積されたブランド価値ごと先細ること必定です。例えば、男性用でも女性用でもヘアケア商品などで、スーパーやドラッグストアなどの棚最下段にひっそり置かれている、もはや高齢者専用品と化した商品群を思い出してください。

 「花王史上最高」をアピール

 その点、他でもない花王さんがのらりくらりしているはずもなく、アタックブランドの大幅リニューアルで手を打ってきたというわけです。4月1日に満を持して『花王史上最高の洗浄基剤「バイオ IOS」実用化 第一弾 衣類よみがえる「ゼロ洗浄」へ』と銘打ち、「アタックZERO」を新発売

 花王さんらしい、シーズ(独自の基礎技術)を打ち出し、「花王史上最高」と謳っているところに、横綱にして乾坤一擲の気合を十二分に感じます。 

 日本離れした新鮮なパッケージとテレビCM

 とにかくその意気込みはパッケージデザインからもひしひしと感じられます。緑を基調としたカラースキームを捨て、すっきりとした白地、わずかなオレンジの差し色以外はモノトーンに近く、大胆に色味をおさえたシャープな雰囲気。何より、英文字がドーン!と大きく配置され、アタックのカタカナは申し訳程度に添えられているだけです。英文字の印象も手伝い、率直に言えばアメリカンな印象。輸入品と言われれば、そうかもしれないなと思うレベルです。勿論悪い意味ではありません。

 何かとネガティブチェック全盛のご時勢にありながら、「これではお年寄り世代は読めないよ」などというありがちな意見も吹っ切る刷新力。

 テレビCMも松坂桃李さんや菅田将暉さんら5人のイケメン俳優が登場する豪華なもので、主婦キャラクターが多い洗濯用洗剤として新鮮です。

 何より、幅広い世代をカバーしつつミレニアル世代を意識したキャスティングに苦心が感じられます。破格の広告量とあわせて気合を感じさせてくれますね。販売店などの店頭も5人のイケメンPOP祭りで、すごいことになっております。

 もちろん初代アタックの時がそうであったように、既存の商品ラインもしばらくは併売するのでしょうが、横綱相撲で、きっちりアタックZEROを定番まで押し上げることでしょう。並のメーカーでは、基幹商品をここまで大胆に変えることにはなかなか踏み切れないものです。

 パッケージの形状自体も「ワンハンドプッシュ」を前面に打ち出した斬新さ。1987年アタック発売時のコンパクト化革命を彷彿とさせる、まさにこれは“花王ルネッサンス”ですね。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら