自動車業界、定額制導入を拡大 トヨタが先陣、国内市場活性化の呼び水に
毎月定額の料金を支払うことで気軽にマイカー感覚を楽しめる車の「サブスクリプション(定額制)」型サービスの選択肢が広がりつつある。トヨタ自動車が新たなファンの開拓に向けて定額制サービスの提供を始めたほか、この分野で先行するIT企業のナイル(東京都品川区)も中古車版の検討に乗り出した。両社の戦略に迫り、車の新たな利用スタイルが国内市場に広がる可能性を探った。
若者取り込み狙う
「車の所有者は将来的に減ってくる。(国内新車市場を)押し上げる方策を取らないとまずい」。全国の自動車販売会社でつくる日本自動車販売協会連合会の小関真一会長(山形日産自動車社長)は、2月に東京都内で開いた記者会見で、市場を活性化する手段の一つとして定額制の効果に期待感を示した。
小関氏が注目するサービスの一つが、トヨタが2月に東京都内の販売店で始めた定額制の新サービス「KINTO(キント)」だ。トヨタはまず、3年間で6台の高級車「レクサス」を半年ごとに新車に乗り換えることができる「キントセレクト」を開始。3月1日には、ハイブリッド車「プリウス」など5車種から1台を選び、3年間乗れる「キントワン」も始めた。両プランともに頭金は不要で、キントワンはインターネットでも申し込める。
経済的な“お得度”はどうか。キントでプリウスを選んだ場合、3年間の総負担額は約166万円。仮にプリウスの新車を300万円で購入し、3年後に中古車として半額で売ると150万円の負担となる。これに、車両代以外の諸費用を上乗せすると、総負担額はキントとほぼ同じだ。ただ、キントは月々の負担を平準化できるため、急な出費を気にすることなくマイカー生活を送りたい消費者にとっては魅力的だ。
それでも、キントは事実上の個人向けカーリースのため優位性が見えにくい。このためトヨタは今秋以降、安全運転やエコ運転の度合いをポイント化し、キントの支払いなどに充てられるサービスを導入する予定だ。鍵を握るのがキントの対象車種に搭載した専用通信機「DCM」で、通信機で集めた運転データをポイントサービスに生かす。
データは、アフターサービスの充実化にもつなげたい考えだ。例えば、顧客の使用状況を分析し、販売店から最適なメンテナンスを迅速に提案するといった展開が想定されるという。
トヨタが国内自動車メーカーの先陣を切って定額制サービスに参入した背景には、人口減少などで先細りが見込まれる国内新車市場がある。昨年の新車販売台数はピークだった1990年の7割近い約530万台まで縮小。消費者の所有意欲が薄れる傾向も市場に影を落とす中、車を造って売るだけの従来ビジネスに頼っていては「じり貧」になるという危機感を強め、新たな一手に打って出た。
トヨタの友山茂樹副社長は「車はもちろん、メンテナンスや保険、リースといったバリューチェーン(事業連鎖)ビジネスをいかに確保するかが重要だ」と強調。トヨタが住友商事系のリース大手と設立したキントの運営会社も「接点がなかった若者をネット経由で呼び込みたい」と、新たな需要開拓に意欲を示す。
キントには、顧客をつなぎ止めるという狙いもある。トヨタ車が他社のサービスを通じて売れても、トヨタの販売店を利用するとは限らない。キントの運営会社によると、キントの利用客はサービス期間中にトヨタの販売店でメンテナンスなどを受けることになるため、販売店の収入が安定化する効果が見込める。さらに、利用客から返却された車を中古車で貸し出すなど、商機を広げることも可能になるという。
車の定額制サービスをめぐっては、異業種や海外メーカーの日本法人も熱い視線を注ぐ。ナイルはカーリース大手のオリックス自動車と提携し、昨年1月に「カルモ」を立ち上げた。高橋飛翔(ひしょう)社長は「日本人の世帯収入が減少する中で車の所有に伴う負担感が増し、結果として若者の車離れが起きている。その状況を変えたい」と意気込みを語る。契約数は、検討中の中古車も含めて1万件に増やすことが当面の目標だ。
メルセデス・ベンツ日本(同品川区)も、新規顧客の開拓に向けて定額制サービスの提案に力を入れる。広報担当者は「定額制によって新車を3年ごとに乗り換える流れが定着すれば、日々進化する車の技術をアピールしやすくなる」と力説する。
月々の料金軽減課題
とはいえ、車の定額制サービスが音楽やゲームのように普及するかは未知数だ。都心に住む消費者にとっては、駐車場代や燃料代も含めると月額の負担額は決して安くないからだ。キントセレクトは富裕層を狙ったサービスとはいえ、3年間でレクサスを乗り比べる価値がどこまで受け入れられるかも読みづらい。
KPMGモビリティ研究所(同千代田区)の木下洋パートナーは「本当に欲しい商品は購入し、何度も試したいモノは定額制サービスを使う」と分析。そうした消費者の購買行動を踏まえた上で、「月々の料金を下げるか、割高な料金に見合うだけのサービス内容に充実しなければ普及は進まない」と課題を投げかける。各社の挑戦の成否は国内自動車市場の今後を占う試金石となりそうだ。(臼井慎太郎)
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■定額制で新車に乗ることができる主なサービス
◆キントワン(トヨタ)
・対象車種 「プリウス」「クラウン」など5車種
・月額料金(税別) 4万6100~9万9000円
・特徴 好きな1台を選び、3年間利用。料金にメンテナンスも含む
◆キントセレクト(トヨタ)
・対象車種 「レクサス」6車種
・月額料金(税別) 18万円
・特徴 3年契約。高級車を半年ごとに乗り換えることができる
◆カルモ(ナイル)
・対象車種 国産100車種以上
・月額料金(税別) 1万2700円(軽自動車、9年契約の場合)から
・特徴 契約期間は1~9年。車種選定から申し込みまでインターネット上で完結
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