【eco最前線を聞く】飲料水の安定供給へ途上国で浄水事業

 

 □ヤマハ発動機 海外市場開拓事業部企画推進部 クリーンウォータープロジェクトグループグループリーダー・西嶋良介氏

 ヤマハ発動機は「安心で、きれいな水を世界の人々へ」をテーマに、飲料水不足で苦しむアジア、アフリカで水資源の確保と飲料水を安定的に供給する浄水事業を展開している。自然の力を利用する技術による小型浄水装置を設置する事業で、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に通じる取り組みだ。海外市場開拓事業部企画推進部クリーンウォータープロジェクトグループの西嶋良介グループリーダーは「設置して終わりでなく、中長期的に社会にどう効果をもたらしていけるか評価していきたい」と、プロジェクトのその先の姿も見据える。

 ◆共同体で維持可能な装置

 --活動のきっかけは

 「当社は1974年にインドネシアで二輪車生産工場を立ち上げ、現在、年300万台を超える当社最大の生産拠点に成長した。ところが、80年代に現地駐在員の家族から『水道の水が茶色くて困る』との苦情が寄せられた。これを受け、家庭用浄水器の開発に乗り出し、91年に販売開始した。ただ、低所得層が多く浄水器すら買えない農村部の方が安全な水へのニーズは圧倒的に高い。そこで『コミュニティーに浄水機を提供する』目的で90年代半ばに浄水装置開発に踏み切った」

 --開発で重視したのは

 「低いランニングコスト、容易なメンテナンス、地元の共同体で運営可能という3点を掲げた。当社の拠点も技術者もいない農村部だけに、特殊な技術も要らずに維持、活用できることを念頭に置いた。さらに、住民で組織する『水委員会』が運営する自治モデルを取り入れ、水は無料でなく有料でメンテナンス費用に積み立てるプログラムを組んだ」

 --技術的な特徴は

 「機械を使わない自然の力での浄水を目指し、『緩速濾過(ろか)』の技術を用いた。山に降った雨が地中で微生物などで浄化され、麓できれいな水がわき出るとイメージしてもらえばいい。古くから世界で用いられてきた技術で、『ヤマハクリーンウォーターシステム』としてパッケージに凝縮した。供給量で1日8000リットル(約800~1200人分)、2500リットルの2機種がある」

 --浄水の仕組みは

 「川や湖から引いた水を砂と砂利の入ったタンクで濾過し、藻類の光合成で溶存酸素を増やすバイオ層、緩速濾過槽、殺菌装置を経て浄水する。凝集剤や膜を用いない自然の営みに近い水の浄化法だ。年間を通じ十分な水を確保できる漂流水を源水とする。地下水は掘削コストがかかるうえ、水が枯れる場合も想定され、持続性を重んじた」

 ◆12カ国で35基を設置

 --設置実績は

 「データを得るモニターとして当社独自にインドネシア、ベトナムなどアジア6カ国に計6基を設置し、現在は官民連携のパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)方式で展開している。2010年の本格販売から今年10月末までに12カ国で計35基を設置した。政府機関や国連開発計画(UNDP)など国際機関との連携・協力で取り組んでおり、特にセネガルでは日本政府の無償資金協力案件で10基を落札し、今年2月から順次設置してきた」

 --導入効果は

 「女性や子供が片道2~3キロかかる水くみ作業がなくなり、その分を農作業に充てれば農業生産性は上がる。子供も学校に通え、きれいな水の供給で暮らしは大きく改善する。単においしい水が飲めるだけでなく、住民の健康改善面に配慮しており、その国の医療費負担軽減にもつながる。インドネシアのカラワン地区では下痢や発熱、腹痛などの症例が導入後1年で激減した。余った水を売るビジネスを手掛ける地区も表れ、想像を超える副次的効果を生んでいる」(鈴木伸男)

【プロフィル】西嶋良介

 にしじま りょうすけ 1990年ヤマハ発動機入社。95年国際協力機構(JICA)漁業専門家出向。96年ヤマハ発動機に戻り西アジア・中近東市場担当、アフリカ市場担当などを経て、2017年から現職。大分県出身。