【高論卓説】今年のゲームと特許を振り返る 古参VS新参、紛争回避に真剣議論を
平成最後の年の瀬も残すところあと数週間である。今年も特許に関する多数のニュースがあった。筆者がゲーム好きだからというわけではないが、中でも任天堂がコロプラを訴えたニュースが最も世の中をにぎわしたように思う。前にもこの事件について取り上げた際に述べたが、ゲーム業界で特許紛争が生じるのは必然である。
そもそも、特許は独占権ではない。例えば、Aという技術について特許を保有しているX社と、AにBという要素を加えた技術について特許を保有しているY社がいるとして、AにBを加えたことに進歩性があればY社は、この技術について特許を取得できるのだが、A+Bを実施するとX社の特許を侵害することになる。
このように、特許を保有しているからといって安心なわけではない。市場を構成するプレーヤーは、他社が実施するであろうゲームや機能をおさえた特許を取得することが重要になってくる。このような有効な特許を保有していないプレーヤーは保有するプレーヤーから差し止め請求を行使される等して、市場から排除されることになる。
ゲーム業界に目を向けると、任天堂に限らず、バンダイナムコ、セガ、スクウェア・エニックスやソニーなどの古参のゲームパブリッシャーが多数の特許を保有している。彼らが古くからコンシューマー向けゲーム機のゲームを多数販売してきたことを考えると当然のことである。
他方で、ビジネス的にはコンシューマー向けからスマートフォン向けに変わってきており、これらの古参のパブリッシャーに限られないプレーヤーがどんどん登場している。もっとも、これらのプレーヤーが必ずしも有効な特許を保有しているわけではない。しかし、技術としてはコンシューマー向けと変わらないものもあり、コンシューマー向け時代に取得した特許も一部通用する。
つまり、現在では、有効な特許を保有しているプレーヤーと、していないプレーヤーが同じ市場にいるわけで、紛争が生じるのは必然である。一般的に、スマホゲームはコンシューマー向けゲームに比べて参入障壁が低いと言われてきたが、最近では、よく「特許のせいで自由なゲーム開発ができない」と言われている。
上記の古参プレーヤーの保有する特許の件数は数千件にもおよび、ゲーム開発の幅が相当狭められているのは事実だ。もちろん、私も特許の重要性や制度趣旨は理解している。しかし、これでいいのだろうか。ゲーム開発の幅が狭められてしまうと、面白いゲームは生まれないだろう。それがゲーム業界全体、ひいては(筆者も含め)ユーザーのためになるとは思えない。
ゲームの寿命は、大ヒットゲームでも3、4年と長くない。ゲーム業界が中心となって、そのような状況で深刻な特許紛争が生じないような制度設計を考えるべきだろう。来年もゲームと特許に注目である。
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【プロフィル】溝田宗司
みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。17年に溝田・関法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。
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