社長とは「ツアープロデューサー&コンダクター」である

 
社長とは「ツアープロデューサー&コンダクター」である(Getty Images)

 【社長を目指す方程式】こんにちは、経営者JPの井上です。

 前回「社長には、社長としての視点・視野・視座がある」という話をしました。今回は関連しつつ、社長の志向・行動特性に視点を移してみたいと思います。

 そもそも、社長とは、どのような志向・行動をする~してしまう~生き物なのか?

 組織を率いる社長という生き物は、「同志をどうしても連れて行きたい場所」を持つ、止むに止まれぬ想いを持つ存在です。例えるならば、事業や経営という「旅」を率いるツアープロデューサー(旅の企画をする人)でありツアーコンダクター(旅の案内人、世話人)のような立場だと言えるでしょう。

 このことから、社長になる人が備えていなければならない3つのことが見えてきます。

 ◆その1「行きたい処(夢・ビジョン)がある」

 ツアープロデューサーたる社長としては、まずはそもそも、自身の「行きたい処」がなければなりません。事業・経営としての「行きたい処」とは、即ち成し遂げたい夢や志、ミッションやビジョンがそれに当たります。

 自分がやりたいこと(行きたいところ)があり、そこに同志である社員たちを連れて行きたいという欲求を持っていることが、そもそもその人が社長たるべき人なのかどうかの第一歩だと言えるでしょう。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ツアープロデューサー&コンダクター力」

 (1)「(連れて)行きたい処(夢・ビジョン)がある」

 (2)「旅の仲間を募る力がある」

 (3)「目的地まで旅を続ける力がある」

 私は経営職・幹部職のキャリアや転職のご支援をしていますが、常にご相談者の経営者・幹部各位にまず質問するのは、「○○さんは(今後)何をやりたい人なのですか」ということについてです。これに明快に答えることができないならば、いま一度、ご自身が組織を率いるリーダーという役割を負うべきなのか否かについて自問自答をして頂きたいです。

 部長、執行役員、取締役、社長という「肩書き・役割」はあくまでも手段に過ぎません。その役割を自分が負うことで、何を成し遂げたいのか、誰と共にどこへ行きたいのか。少なくともこの回答をお持ちでない人に、社長にはなって頂きたくはありません。行き先も分からないトップに従う社員(という旅の仲間)が路頭に迷うのは可哀想ですよね?

 ◆その2「旅の仲間を募る力がある」

 自分の夢(大義・野望)に共感させる説得力を持つ人。その夢、ミッション・ビジョンに人が集まってくる人。「ツアー客」を集めることができる人、が社長の条件・その2です。

 魅力的なツアー、自分にとって何か良い体験を得られそうなツアーには、人がどんどん集まってきます。

 折しもいま、“大・人手不足時代”が到来しており、魅力を感じない企業へは人が全く集まらなくなっています。これは必ずしも企業規模などの問題というよりも、「その企業に参加することで、自分が今後やりがいある働き方ができるのか、その見返りがちゃんとありそうか」という観点での企業選別フィルターがかかり始めているのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ツアープロデューサー&コンダクター力」

 (1)「(連れて)行きたい処(夢・ビジョン)がある」

 (2)「旅の仲間を募る力がある」

 (3)「目的地まで旅を続ける力がある」

 皆さんは「だれをバスに乗せるか」というフレーズを聞いたことがありますか?

 これは、ビジネスコンサルタントのジム・コリンズ氏による名著『ビジョナリー・カンパニー2』に出てくる有名なフレーズです。実は本書の第3章のタイトル自体がこれで、その副題として「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」と記されています。私はこの「人が先、目的は後」については一部異論があるのですが、目的も含めて、どのような人とどんな想いや価値観を大切にして、この旅を一緒に歩みたいのか、という観点で、「だれをバスに乗せるか」というフィルターはとても重要であると思います。

 旅の仲間は誰とでも良い、ということはありませんよね。皆さんが「この人となら」共に旅の道中を一緒にしたいのは、どのような人でしょうか?

 ◆その3「目的地まで旅を続ける力がある」

 “旅”に出たら、何としても目的地に辿り着く。皆をそこまで連れて行くという執念を持つ。

 もちろん、一般的に私たちが参加するツアーなども、ちゃんと目的地まで辿り着かなければ困りますし、ツアーの行程がしっかり予定通りにこなされなかったとすれば私たちは顧客クレームを出しますよね。

 しかし、今回喩えている“経営・事業という旅”については、一般ツアーというよりも、もしかしたら「冒険」といったほうが適切かもしれません。

 当初計画されたスケジュールがあったとしても、おそらくそれがそのまま進むことは、まずあり得ない。道中、様々な困難や障害、難敵などが現れるアドベンチャーとなるでしょう。とはいえ決して「雨天中止」という訳にはいかないのです。

 この嵐の中を、旅の仲間と共に、時に励まし、時に叱咤し、いかなる苦難が襲いかかっても、何としても目的地までの旅を続ける信念と執念を持つツアーコンダクターが、社長なのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

「ツアープロデューサー&コンダクター力」

 (1)「(連れて)行きたい処(夢・ビジョン)がある」

 (2)「旅の仲間を募る力がある」

 (3)「目的地まで旅を続ける力がある」

 時折、経営や事業が困難に突き当たると、最初に逃げ出す社長や役員がいますが(そういう人が時折、当社にも転職相談に来ます…)、これがいかに間違ったことか、そういう行動をする経営陣の本質的な問題に、この話から気づいて頂けることと思います。

 継続力、仲間をチームワークさせる統率力(信頼感)を持ち合わせる存在こそが、正しい社長、真の社長なのです。

 ◆経営・事業という「終わりなき旅」

 そして最後に、この“経営・事業という旅”については、終わりがありません。と言いますか、終わりを設けてはいけないのです。

 当初設けた目的地・ゴールが近づいて来たとしたら、できる社長としては、そこから更に先へと目的地・ゴールを伸ばします。山の頂上が近づいて来たら、更なる高い山、あるいは新たな山へと目的地・ゴールを設定しなおすのです。

 こうして「終わりなき旅」を、仲間と共に旅し続けるツアープロデューサー&コンダクターが、社長なのです。

 もし、あなたの中の「同志をどうしても連れて行きたい場所」への情熱が、目的地到着によりゴールを迎えた、あるいはその情熱が潰えてしまった、その時こそ、あなたが次の後継ツアープロデューサー&コンダクターへと旅のバトンタッチをする時~引退の時期~です。

 さて、あなたは今後、社長になったとき、いつからどのような旅を告知開始し、スタートさせますか? 楽しみですね、いつかぜひお聞かせください!

【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)

株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。

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