名産品や旬の魚提供…激戦区も次々 自治体ショップ、「食」で勝負

 
「IBARAKIsense」のオープニングには県出身でいばらき大使の女優、白石美帆さん(右から3人目)らも駆け付けてテープカットした=東京・銀座

 地方自治体が東京都内に置くアンテナショップが熱い。特産品の販売や観光、「UIJターン」を呼び込む情報発信拠点として増えており、自治体単独の出店数は10月時点で過去最高の60店舗に上る。特に最近は「食」を売りに誘客を図るケースも目立っている。

 名産品や旬の魚提供

 10月25日、東京・銀座に、茨城県のアンテナショップが改修を終えて新装開店した。「茨城は魅力度ランキングが6年連続の最下位ですが、素晴らしい品を知っていただきたいと全面リニューアルしました」。オープニングセレモニーで大井川和彦知事が声を張った。

 店名は「茨城マルシェ」から「IBARAKI sense」に変え、商品や食をグレードアップ。マーケット路線から「上質でセンスあるストア」にコンセプトを改めた。カフェでは名産のアールスメロンや笠間栗のぜいたくなパフェを1600円で提供する。

 内装やインテリアも迎賓館に使われている真壁石など県産上質材をふんだんに用いて茨城ブランドを強調。高級店が並ぶ銀座で買い物や食事をする富裕層を意識したイメージアップ戦略である。

 東京駅に近い銀座、有楽町、日本橋界隈(かいわい)は約30店がひしめく激戦区だ。

 JR有楽町駅に面したビルの1階に構える「北海道どさんこプラザ」(北海道)。2017年度の売り上げは過去最高の約10億2000万円で、9年連続のトップ。来場者数も200万人超と最多で、平日でも客がひっきりなしに訪れる。

 濃厚なソフトクリームも人気だが、ファンを引きつけるキーワードは新陳代謝だ。新商品を3カ月間販売し、好評ならさらに3カ月延長、そこから上位10品目が新たな定番商品に採用される。

 約9億7000万円で2位につけるのは、銀座1丁目の「ひろしまブランドショップTAU」(広島県)。瀬戸内の鮮魚コーナーが目を引く。旬の魚が毎日空輸されてくるアンテナショップはここだけ。刺し身や三枚おろしの予約も受け付けており、館内の飲食コーナーに持ち込みもできる。

 事業者側もチャンス

 かつては、ご当地ものの菓子や果物など特産品の物販が主流だったが、飲食スペースを設ける店舗が増えている。今では在京アンテナショップの半数以上がレストランなどを併設し、看板スポットにもなっている。

 奈良県「ときのもり」のフレンチは「ミシュランガイド」の一つ星。「ぐんまちゃん家」(群馬県)は有名料亭「京都吉兆」の総料理長監修メニューを出す。「まるごと高知」(高知県)は客席から見える豪快なカツオのわら焼きが売りだ。

 最近のトレンドは「ちょい飲み」。富山県など多くの店舗で、自慢の地酒やワインをショットで飲めるカウンターを設置、仕事帰りのサラリーマンらに受けている。

 新機軸はオーベルジュ(泊まれるレストラン)にした徳島県の「Turn Table」か。ホテルスペースにしゃれたカウンターバーもしつらえ、特色を出している。

 自治体のアンテナショップを支援する一般財団法人「地域活性化センター」が定期的に情報交換会を開いている。今年8月には約100人が参加。自治体関係者のほかにイベント企画会社、飲食店のプロデュース業者なども多かった。

 アンテナショップの運営は、ほとんどの自治体がノウハウを持つ専門の事業者に委託している。併設レストランなどもコンペなどで外部から募集するケースが多い。

 事業者側からすればビジネスチャンスだ。地域活性化センターの畠田千鶴広報室長は「個人で都心の一等地に出店するのはハードルが高いが、自治体がスペースを用意するアンテナショップなら家賃も手頃でリスクも少ない」と指摘する。

 実際、アンテナショップ内での初出店が当たり、全国展開するまでに成長した鹿児島県のしゃぶしゃぶ店もあるという。

 一方で、コンペに応募してきた飲食業者が審査基準を満たさず、売り上げの県側取り分を減らして再募集した「とっとり・おかやま新橋館」(鳥取県・岡山県)の例も。そこに見えるのは、高い水準のサービスを目指す厳しい姿勢だ。