【群馬発 輝く】タイプエス 世界初の気象観測用ドローン、活躍の場広がる
災害救助から宅配事業まで多様な分野で活躍が期待される無人航空機「ドローン」。気象観測機器販売会社のタイプエス(前橋市)は、強みとする測量技術を生かした世界初の気象観測用ドローン「R-SWM」を開発し、活躍の場を広げている。
低コストが武器
「これだ。ドローンでいこう!」
設楽丘社長が決心したのは会社を設立して約10年、仕事が軌道に乗り出した2012年のこと。それから4年かけて研究開発し、発売したのがR-SWMだ。
任意の高度・緯度・経度で、風向・風速・温度・湿度・気圧を観測できるのが特徴。
オプションを含めると約500万円と高額だったためか、買い手はなかなか見つからなかったが、「調査に使いたい」との依頼は多く、大学や民間気象コンサルタント、自治体などの実務の下請けに追われた。
R-SWMは、風力発電所の建設前の高さに応じた風速データの収集、風によるダイオキシンや放射能などの流れを予測する環境アセスメントの調査にも使われた。ロケットの発射前の気象観測でも、従来のセスナの代わりを担い、低コストでデータ取得ができるようになった。
タイプエスは、千葉市ドローン宅配等分科会にも参画している。ドローンによる宅配は、川や海に沿って約60~100メートルの上空を機体が隊列を組み、離島や山奥などにまで人件費と時間をかけずに配達するのが理想。ドローンにとって風は大敵だが、R-SWMが「管制塔」の役割を担い、当日の気象情報を宅配用ドローンへ伝えることができれば、課題は解決する。
広がる可能性に、設楽社長は「追い風が吹いてきた」と胸を高ぶらせ、「私の夢は6大陸で仕事の足跡を残すこと」と語る。その夢は実現しつつある。
第60次南極地域観測隊に、社員の佐賀勝已さん(38)が参加。来年2月からR-SWMがドローンとして初めて南極で気象観測を行うこととなった。
従来は使い捨てのバルーンで上空の気象観測などを行ってきた。ドローンは高度では及ばないが、繰り返し使用でき、環境に優しく、低コストで観測ができると期待されている。
「低温、低気圧など未知の世界で、どれだけ観測できるか楽しみ。飛行試験も同時に行いたい」と設楽社長は話す。
考古学調査にも
東日本国際大学(吉村作治学長)のエジプト考古学研究所が行うクフ王のピラミッドの測量調査にも参加が決まった。
ドローンの発展は、安全な運航・運用が大前提となる。設楽社長は、操縦士の育成にも貢献している。
今年9月には、群馬県片品村と、ドローンの講習団体の管理や操縦士の養成を行う日本ドローンコンソーシアム(JDC)群馬地域部会が同村の武尊(ほたか)牧場で開いたドローンスクールで講師を務めた。
東北大学や民間業者、国土交通省、林野庁などの約70人が参加。操縦訓練を、スキー場のゲレンデを初級、中級、上級に分け、レベルに応じて実施。マネキンを使い、災害現場での遺体の捜索の模擬実習や夜間でのフライト訓練なども行った。
参加した関東森林管理局の担当者は「険しく山深い場所ではドローンは欠かせない。飛行技術とその他の可能性を探ろうと思った」と話した。
ドローンへの期待感の高まりりとともに、タイプエスも夢を追いながら着実に上昇し続けている。(橋爪一彦)
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【会社概要】タイプエス
▽本社=前橋市荒牧町2-50-28 ((電)027・233・7303)
▽設立=2003年6月
▽資本金=1000万円
▽従業員=25人
▽売上高=3億3000万円(2018年5月期)
▽事業内容=気象観測機器販売、設置、保守など
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□設楽丘社長
■サービス・満足・サポートにこだわり
--どんな学生時代だったのか
「バブル全盛期だった高校3年のとき、『こんな異常な状況がいつまでも続くはずはない。東京を出よう』と考え、卒業したら就職しようと担任に相談したところ、『就職希望者はお前1人だけ。とりあえず専門学校へ行け』とアドバイスされた」
--専門学校を卒業した後は
「宇都宮市の測量系の会社で6年働き、次に前橋市の商社で働いてノウハウを学び、起業する準備をした」
--なぜ前橋市で起業を
「人口が4300万人もいる関東を出るのは得策ではない。北関東で起業しようと決めていた。妻の出身地だったこともあり、前橋市で起業した」
--群馬県はどうだった
「人がのんびりしていて、居心地が良かった。もし東京で起業したら競争も激しかったろうし、慌てずにじっくりと仕事に取り組めず失敗していたかもしれない。亀のような歩みだったかもしれないが、質の高い仕事ができたと思う」
--変わった社名だが
「日本で唯一の名前。独立する1年前から決めていた。サービス(Service)・満足(Satisfaction)・サポート(Support)など『S』にこだわる仕事がしたかった。起業する直前まで、同じ名前の会社が出てこないか心配していた」
--群馬県民の悪いところは
「郷土愛が強すぎることか。他県に進出すれば、いくらでも仕事があるので、営業所を作るから、誰か常駐してくれないかと声をかけても誰も手を挙げない(笑)」
--社員に求めることは
「興味のあることには分野を問わず、どんどんチャレンジしろと声をかけている」
--自分の子供が会社を手伝いたいと言い出したらどうする
「あり得ないこと。もしそうなったら、私が出ていくだろう」
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【プロフィル】設楽丘
しだら・たかし 国土建設学院卒。1991年測量系の会社に入社。前橋市の商社を経て2003年6月タイプエスを設立。12年、ドローンに出合い、得意分野の測量に活用する。日本ドローンコンソーシアム(JDC)理事。47歳。東京都出身。
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≪イチ押し!≫
■「R-SWM」社員とともに南極へ
数あるドローンの中でイチ押しは、世界初の上空気象観測用の「R-SWM」。信頼性の高い自律制御システム研究所(千葉市美浜区)の機体と、フィンランドの大手気象観測機器メーカー、ヴァイサラと共同開発したソフトウエアを使用している。
上空1~2キロの任意の高度・緯度・経度での風向・風速・温度・湿度・気圧を測定。風力発電所建設の事前調査のほか、上空ほど気温が上がる接地逆転層の観測、飛行するドローンに気象情報を伝えることなどが主な用途だ。
全長112センチ、全高61センチ、総重量7.3キロ、羽根仕様はヘキサローター(6回転翼)。飛行時間は約10~25分。価格は付属品も含めて約500万円。第60次南極地域観測隊にタイプエスの社員が参加、約1年5カ月にわたり世界初のドローンによる南極気象観測を行う予定。
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