【eco最前線を聞く】機密文書を文具類に再生 無料化めど TAAS大越隆行氏に聞く
リサイクルベンチャーのTAAS(ターズ、東京都渋谷区)は、昨秋に始めた有料による機密文書処理サービス「e-pod」(イーポッド)について、早ければ来年秋にも無料化する。回収した紙を溶解処理して、メモ用紙や便箋などに再生する。この分野には大手の宅配業者や警備会社、廃棄物処理業者などが相次いで参入、競争が激しくなっている。無料化ビジネスの仕組み、今後の展開について、大越隆行社長兼最高経営責任者(CEO)に聞いた。
回収箱サイネージに広告
--なぜ無料化を考えたのか
「1年ほど前から、契約企業約40社に専用の回収箱を置き、廃棄書類を回収。それをまとめて溶解処理業者に送って処理するサービスを始めた。処理後に残った材料でノートやメモ帳など、オフィスの机上で活躍する文具類に再生して、契約企業に提供している」
「溶解処理を施すので機密保持には優れてはいるけど、焼却処理よりも費用がかかるという声を契約企業からいただくようになり、何とか料金の引き下げ、もしくは無料化ができないかと考えていた」
--どうやって無料化するのか
「鍵付きの機密文書回収箱にデジタルサイネージ(電子看板)を付ける。サイネージに広告を流すことで広告費を集める。その広告費を処理費用に充てる。これにより処理費用を無料化する」
--ビジネスモデルが他者にまねされるのでは
「『鍵付き溶解処理ボックスおよび広告配信システム』との名称で、既に特許を出願している。また特許協力条約(PCT)に基づく国際出願制度を利用し、海外特許の取得も目指している」
--そもそもe-Podとはどんなサービスなのか
「昨年9月に始めた。左右60センチ、奥行き21センチ、高さ13センチの専用の回収箱を企業に置いてもらい、そこに集まった廃棄文書を回収する。回収してほしい時には顧客からインターネットで依頼する。月額1万円で3箱利用できる。既に約40社が利用している。溶解処理された紙を使って、メモ用紙や便箋など、オフィスでよく使われる文具に再生し、利用企業に還元している」
--この箱にもちょっとしたアイデアがある
「回収箱の側面を鳥のくちばしのような『く』の字型にしている。とがった部分に紙を当てて入れることで、紙の向きがきちんとそろった状態で収納される」
処理時の漏洩リスクなし
--このビジネス、大企業との協業で成り立っている
「日本郵便と提携し、回収した文書の輸送や保管をお願いしている。また廃棄文書の溶解処理に当たっては、徳島県内にある会社に委託している。とはいっても丸投げではなく、処理工場のなかにこのサービス専用の屋内管理区域を設定。さらに24時間稼働の監視カメラを置き、有人による監視のなかで行う。さらに処理に当たっては、回収箱を開梱せずに処理装置に直接投入する。これにより、第三者への情報漏洩(ろうえい)リスクをなくした」
--このビジネスを思い立ったきっかけは
「仕事の都合で自宅のマンションを空けることが多く、郵便受けに入っているチラシを見ずにそのままごみ箱に捨てていく。そこに疑問を感じた。『個人の家でさえこの状況だから、企業ならもっと多くの不要な文書があるのでは』と思い、それまで勤めていた会社を辞め、昨年10月にTAASを設立した」
「リサイクルセンターなどに廃棄文書を持ち込むことが一般的だが、それがどのように処理され、加工され、製品化され、手元に戻ってくるのかにまでは関心が及んでいない。そこで同社のサイトのマイページ機能により、どれだけの量の紙を排出したかも分かるようにした。日々の生活のなかでリサイクルという社会貢献が組み込まれていくような世界観を、このビジネスを通じて生み出したい」
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【プロフィル】大越隆行
おおごし・たかゆき 関東学院大人間環境学部卒。2007年grooves入社、10年にアマゾンジャパンに入社。在籍時にアマゾン史上最年少の事業責任者となる。15年にランサーズに入社し、フィリピン子会社の立ち上げに関わる。16年9月にランサーズを退職。TAASを設立し、社長に就く。33歳。神奈川県出身。
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