日本酒の新ブランド、異例の入札会 「想定外の高値」福井の酒蔵、高価格市場を開拓
福井県を代表する地酒「黒龍」の酒蔵として知られる黒龍酒造(永平寺町)が新ブランド「無二」の入札会を東京都内で開いた。入札で価格を決めるのは日本酒業界では異例だ。目利きのバイヤーが試飲し、入札で高値をつけることで、高くても消費者が納得するブランド商品を目指す。ワインやウイスキーなどと比べて小さい高級品市場の拡大を図る動きが業界で相次いでいる。
入札会は東京・西麻布のレストランで6月中旬に行われた。並んだ酒は「無二」の醸造年が異なる4種類。全国66の酒屋からバイヤーが集まり、真剣なまなざしで試飲と入札に臨んだ。応札者が多く、黒龍酒造が当初提示した価格を大幅に上回って落札された。具体的な落札価格は公表していない。
黒龍酒造の最高級酒「石田屋」は720ミリリットル瓶が約1万円だが、今回落札された無二はその数倍から十数倍の価格で小売り販売されるとみられる。水野直人社長(53)も「想定外(の高値)だった」と驚く。バイヤーからは「この味なら高価格でも間違いなく売れる」という声が出ていた。飲食店などに卸され秋ごろ店頭へ並ぶ見込みだ。
日本酒の生産量は減少傾向が続き「高級化せず(ワインなどと比べ)安い酒のままでは、酒蔵の経営は厳しくなる一方だ」と水野社長は危機感を募らせる。黒龍酒造には他の酒蔵から入札会の開催方法などについて既に問い合わせがあるといい、水野社長は「もっと日本酒は評価されていい。いつかワインと肩を並べたい」と意気込む。
「梵」のブランドで知られる加藤吉平商店(鯖江市)は、高価格帯の新商品を来年にも発売予定。試飲したバイヤーの意見を参考に価格を決めるが、従来商品の十数倍を見込んでいる。山口市の商社「アーキス」は平成28年、750ミリリットルで約9万円の高級日本酒「夢雀」を発売し話題になった。売れ行きは好調という。
日本酒造組合中央会の担当者は「消費者の好みが量から質に変わり、高級志向へシフトしつつある」と分析する。日本酒市場が縮小する中でも、吟醸酒や純米酒、本醸造酒といった比較的高価な日本酒は生産が増えている。海外の富裕層からの需要も拡大するとみられており、高価格帯への転換を目指す酒蔵の動きは広がりそうだ。
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