アスリート支援、中小・ベンチャーに広がる 引退後も見据えキャリア形成
東京五輪・パラリンピックの開催まであと2年を切ったが、中小・ベンチャー企業の間で、アスリートを支援しようと、正社員として雇用する動きが広がってきた。これまで企業の支援といえば、資金面や競技用具の開発などの協力が大半。一歩踏み込んだ支援には、選手の引退後も見据えたキャリアアップにつなげたいとの思いがある。
書籍を朗読した音声コンテンツを制作し、配信しているオトバンク(東京都文京区)は、6月21日付で陸上競技部を創設した。部員は3人。そのうちの一人、須河沙央理(すがわ・さおり)さん(25)は、陸上競技部ができる前の2017年3月に入社した。
須河さんは大学卒業後、一度は衣料品大手の実業団チームに所属。主に1500メートルや5000メートル、駅伝などの競技に出場する中長距離ランナーとして活躍したものの、けがや故障に悩まされ続け社内での居場所を失っていった。そんな中で救いの手を伸ばしたのが、東京マラソンを完走する市民ランナーでもある、オトバンクの久保田裕也社長だった。
久保田社長は「手に職がないと(ランナーは)生きることすらできなくなる」と感じ、入社を勧めたという。営業事務として、請求書の作成や収録申込書の確認といった仕事を担当する須河さん。埼玉県内の寮近くで朝練習をしてから午前9時に出社し、午後3時前後には寮に戻って練習に励む。
東京都大田区の町工場が中心となって五輪競技用ボブスレーを製作する「下町ボブスレープロジェクト」。平昌五輪で、そりを走らせる夢はかなわなかったが、ボブスレーをメジャーな競技に育てるべく、新たな試みが始まった。
プロジェクトの中心を担う金属加工のマテリアルは今春、浅津このみ選手(31)を正社員として採用した。
浅津さんは、2010年のカナダ・バンクーバー五輪に出場。女子ボブスレー2人乗りで、そりを押し出す役割の「ブレーカー」を務め、下町ボブスレー1号機にも乗ったゆかりの選手だ。
現在は品質保証課に配属され、加工後の製品検査などに当たっている。細貝淳一社長は「加工後の製品の精度をどう高めていくのかを覚えることは、ものづくりの仕事の世界で必ず役に立つ」と話す。
両社に共通するのは、スポーツを続けるためにもセカンドキャリア(引退後の職業)に役立つ技能を身に付ける必要性があるとの考えだ。オトバンクの久保田社長は「スポーツだけではなく、社会全体からも必要とされる人になってほしい」と話した。
関連記事