西日本豪雨 経営リスク想定3割 洪水への備え、企業の盲点に
西日本豪雨では工場の生産停止や店舗の休業が広がり、被災地の暮らしや経済活動に打撃を与えた。多くの企業にとって洪水への備えが盲点となり、今なお復旧作業が続くなど対応に手間取った可能性がある。内閣府の調査によると、洪水を経営上のリスクと想定する企業は3割にとどまる。地震への備えと比べ落差は大きく、危機管理の課題として浮かび上がった。
「見直し中の矢先」
東京の中堅リース会社が今回の豪雨に見舞われたのは、災害時などの対応マニュアルとなる事業継続計画(BCP)の見直しを進めようとした矢先だった。この会社のBCPは主に地震とテロ、感染症を対象とし「洪水は想定外」だった。全国で自動車や事務機器などのリースを手掛け、西日本にも拠点が広がる。被害状況を問い合わせたり、電話やメールで対処策を指示したりと、泥縄式の対応に追われた。
実は6月の大阪北部地震でも、危うく関西の事務センターが開けず、全社の業務がストップしかねない状況だった。「BCPは顧客に対し『うちはリスク管理体制を整えていますよ』という体裁を取り繕っているだけ。実態は機能していない」。関係者は声を潜めて内情を明かした。
BCPは自然災害やテロなどの危機に備え、従業員の安否確認や取引先との連絡手段、工場が被災した場合の代替施設確保といった手順を定めておくものだ。
「東日本大震災でサプライチェーン(部品の調達・供給網)が寸断され、企業活動が機能不全に陥ったことへの反省」(メーカー関係者)から各企業で策定作業が進められてきた。
政府はBCPを策定済みの大企業の割合を2020年までにほぼ100%、中堅企業で50%に引き上げる目標を掲げるが、内閣府がまとめた17年度の調査では大企業で64.0%、中堅企業で31.8%にとどまっている。
企業が想定するリスク(複数回答)は、地震が92.0%と高い一方で、津波を除く洪水は30.5%と低く、火災・爆発の59.3%や感染症の49.3%を下回った。
業種により対応差
今回の豪雨対応では、業種によっても差が表れた。11年の東日本大震災とタイの洪水に苦しんだ自動車メーカーは、対策が進む業種の代表例だ。ホンダは「豪雨も想定し、部品の調達先を多様化するなどBCPを大幅に強化してきた」。ダイハツ工業も洪水時の避難指示や仕入れ先の状況把握をBCPに定め、大阪や京都などの工場で一時操業を止めたが「速やかに対応できた」と語る。
荷物の配送や集荷を一時停止した佐川急便を傘下に持つSGホールディングスは「おおむね計画通りに対応できた」とする一方で、「これほど被害範囲が拡大し、長期化することは想定を超えていた」と認める。多くの店が浸水し休業を余儀なくされたコンビニエンスストアでは「現地に応援に入った従業員から意見を吸い上げて今後の対応を考える」(ファミリーマート)。物流が混乱し食料などの品薄状態が続いたことへの対策も課題となる。
手を打つ必要性を理解してはいても、企業にとってはコスト面もにらみながらの対応となる。系列のガソリンスタンドが冠水被害で営業を停止したJXTGエネルギーは「スタンドを運営する代理店をどこまでサポートできるか今後の検討が必要だ」と話した。
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