マツダ、ディーゼル孤軍奮闘 逆風下で主力車大幅改良、技術進化を見せつける

 
大幅改良した小型SUV「CX-3」のエンジンを紹介するマツダ商品本部の冨山道雄主査=5月、東京都港区

 世界の大手自動車メーカーが電気自動車(EV)など電動車両へのシフトを強める中、ディーゼルエンジン搭載車に力を入れるマツダの孤軍奮闘ぶりが目立っている。今春以降、ディーゼル車の主力車種を矢継ぎ早に大幅改良。今後ともエンジン技術の開発を継続し、磨き上げた環境性能で勝負する。

 独自性さらに強化

 「新しい経営体制の下でマツダの強みと独自性をさらに強化したい」。26日、マツダが広島県府中町の本社で開いた株主総会。総会後の取締役会で副社長執行役員から昇格した丸本明新社長はこう抱負を語った。

 同日付で社長から代表権のある会長となった小飼雅道氏は5月下旬、大幅改良した旗艦モデル「アテンザ」の発表会の席上で「ガソリンとディーゼルのエンジン技術に一日の長がある。その開発の手は絶対に緩めることはない」と強調、丸本新社長も「理想の内燃機関」を追求し続ける小飼氏の姿勢を踏襲する。

 マツダは2月に中型スポーツ用多目的車(SUV)「CX-5」の改良車を発表。これに続き5月に改良した小型SUV「CX-3」を発売し、アテンザを含めた3度のてこ入れで、ディーゼル技術の進化を見せつけた。

 同社商品本部の冨山道雄主査は「ディーゼルエンジンで燃料を空気ときれいに混ぜて燃焼することで排出ガス内の有害物質を抑制しながら効率的に動力に変えていく。その余地はまだある」と強調。その延長線上で、エンジン燃焼で発生した熱を逃さず動力に変える「断熱技術」などの開発を目指す。

 トヨタ自動車と日産自動車が欧州向けディーゼル乗用車の販売を段階的に縮小する方針を表明するなど、ディーゼル車開発から距離を置くメーカーは増えている。発端は2015年に発覚した独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れ問題だ。英仏政府は40年までにエンジン車の販売を禁止する方針で、ドイツ勢を中心にEVシフトを宣言する動きも広がっている。

 自動車調査会社の英JATOダイナミクスによると、欧州26カ国で17年に販売したディーゼル車の台数は前年比7.9%減の676万台。欧州市場に占めるディーゼル比率は5.1ポイント減の43.8%で、今年に入ってからも販売は精彩を欠く。

 それでも力強い加速と燃費の良さを両立できるディーゼル車は長距離で車を利用する顧客が多い欧州では根強い需要がある。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディの「ドイツ御三家」は、なおディーゼル技術の開発意欲が旺盛だ。背中を押す動きは、欧州連合(EU)が30年を見据えて打ち出した環境規制だ。域内で事業を手掛ける自動車メーカーに対し、21年には走行1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を現行基準値より3割少ない平均95グラム以下とすることを求めている。CO2削減効果が高いディーゼル車の販売低迷が続けば、この目標の達成が難しくなるだけに、各社は焦り始めている。

 総合的にエコ勘案

 マツダがディーゼル市場の攻略にこだわる背景には「ウェル・ツー・ホイール(燃料採掘から車両走行まで)」という視点でCO2削減を進めるという考え方もある。

 日本自動車研究所は、ウェル・ツー・ホイールのCO2排出量を10年度に燃料・動力別で試算した。それによると、ガソリン車が1キロ走行した際に排出されるCO2は147グラムで、ディーゼル車が132グラムだ。一方、走行時にCO2を出さないEVはクリーンなイメージだ。

 ただ、EVの充電に石炭火力発電による電力を使うと、EVのCO2排出量は109グラムに達し、ガソリン車やディーゼル車より圧倒的に少ないわけではない。

 このため、化石燃料による発電に依存する中国などの新興国でEV化が進んでもCO2削減効果は限定的だ。効果を高めるには、太陽光などの再生可能エネルギーの方が望ましい。EVが環境対応に有効かどうかは、各国がどれだけ化石燃料依存のエネルギー構成を見直せるかにかかっている。

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 ■エンジン車排出量削減「優先度高い」

 今後も新興国を中心に自動車の保有台数は拡大するとみられ、35年時点で約85%はハイブリッド車(HV)を含むエンジン車で占められるとの予測もある。そうした理由からマツダは「将来的にも大多数を占めるエンジン車のCO2排出量を下げる取り組みの優先度は高い」(冨山氏)と判断している。

 大手自動車メーカーでエンジン技術者として従事した経歴を持つPwCあらた監査法人の藤村俊夫顧問は「多くの人が購入可能な価格やCO2低減効果などを総合的にみて、全方位で次世代車の開発を進める力量がメーカーに求められる」と指摘。マツダのような中堅メーカーは得意技術を武器に協業先を広げ、外部の力を利用しながら競争力を高める必要性を説く。

 26日の株主総会で、小飼氏からバトンを引き継ぎ自動車産業の変革期を生き抜く決意を述べた丸本新社長だが、企業規模を考えれば、世界市場でマツダが個性を武器に光り続けるためのハードルは高い。経営資源を得意な技術分野に集中させ、電動車などの次世代市場に結びつける力量も試される。(臼井慎太郎)