【高論卓説】フリーアドレスでモチベーションを刺激 行動スキルを高めパフォーマンス向上を

 
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 働き方改革推進の議論の中で、再び、オフィスのフリーアドレスへの関心が高まっている。個々の社員のデスクを決める固定席方式に対して、どの社員がどこのデスクを使ってもよいフリーアドレス方式は、バブル崩壊後、オフィススペース縮小、レイアウト変更コスト削減を図るために導入が進んだ。

 全社員数ではなく、外出しがちな社員を除いた常時オフィスにいる社員数に応じて、デスクやオフィススペースを見込むので、スペースは縮小できる。組織変更や人員増減などによる、デスクのレイアウト変更が不要になるので、その分のコストも削減できる。

 見込みを誤って、社内で会議が多い日などは、デスク数をはるかに上回る社員が出社し、社員は座る席がなくうろうろと席を探したり、オフィス近隣の喫茶店で仕事をしたりしなければならないという事態になっている企業もある。フリーアドレスは、会社の都合によるコスト削減のためのものだというイメージが定着してきた。

 しかし、私は、フリーアドレスによる、個々の社員の能動性、モチベーション、パフォーマンス発揮の効果に注目したい。ビジネスパーソンの行動を分解し、コアとなる行動スキルを高めるプログラムにより、パフォーマンス向上を図っていることを踏まえれば、次のことが言える。

 社員が出社するときのコアとなる行動に着目すれば、固定席で決められた席に座る際には何も考えずに座ることになる。一方、フリーアドレスの場合は、多少なりとも、どこに座ろうかと考えて席を自ら選ぶことになる。フリーアドレスの方が、能動性を発揮することになるのだ。とても小さな行動ではあるが、これが毎日続くとなると、能動性発揮に与える影響は実に大きい。

 窓際の明るいところで仕事をしたい人もいれば、照明をある程度落とした場所の方が効率を上げる人もいる。周囲の人とコミュニケーションを取りながら仕事をしたいときもあれば、一人でじっくり進めたいこともある。人それぞれの多様な状況に応じて、より合致した環境で仕事ができれば、モチベーションが高まる。自分の状況は、他の誰でもない自分が一番よくわかっている。自分の状況に合わせた環境を設定しやすくなるので、パフォーマンスが向上しやすくなるのだ。

 能動性が上がり、モチベーションが高まり、パフォーマンスが向上するといっても、人にはそれぞれモチベーションファクター(意欲が高まりやすい要素)がある。変化に富み挑戦したい「目標達成」、独自に判断することを好む「自律裁量」、さまざまな人と協力したい「他者協調」の要素を強く持つ人は、フリーアドレスがなじみやすい。

 善しあしではないが、変化を好まない「安定保障」、バランスを重んじる「公私調和」、ステータスが気になる「地位権限」の要素が強い人は、フリーアドレスはなじみにくい場合がある。日本のビジネスパーソンのうち、フリーアドレスになじむ上記の3つの要素を強く持つ人は58%、なじまない人は42%だ(前述プログラム参加者1114人の調査)。

 モチベーションファクターは変えることができるので、フリーアドレスをはじめとする会社のワークスタイルが合わなかったら、自分のモチベーションファクターを変えればよい。

 あるいは、自分のモチベーションファクターに合致したワークスタイルをとる会社を選べばよい。このように考えると、多様な働き方に対応するワークスタイルを提供する働き方改革の打ち手は、パフォーマンス向上に間違いなく資する。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年にモチベーションファクター設立。横浜国立大学非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社)。55歳。長野県出身。