「メアリと魔女の花」のスタジオポノック、短編アニメ映画のレーベル創設 今夏3作品公開へ

 
「ポノック短篇劇場ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-」 (C) 2018 STUDIO PONOC

 アニメーション映画といえば、宮崎駿監督や高畑勲監督が手がけてきた長編作品がまず浮かぶ。そうした認識が改まり、短編のアニメーション映画を楽しむ動きがこれから強まってくるかもしれない。スタジオジブリ出身のプロデューサーが立ち上げたアニメーション制作会社のスタジオポノック(東京都武蔵野市)では、短編アニメーション映画を作るレーベル「ポノック短編劇場」を立ち上げ、今夏に3本の作品を劇場公開する予定。クリエーターにとっても新しい技術やアイデアを盛り込んだ作品に挑める場となりそう。長編も含めたアニメーションへの観客の認識が、ここから変わっていくかもしれない。

 「世の中や子供たちに提示できるもの」を再発見する場の創設

 「2020年以降の先行きが見えない中で、世の中や子供たちに何を提示できるか。自分たちに勇気を与えてくれる存在をそのまま映画にしたら、勇気や希望を持ってもらえるのではないか」。3月27日に東京都千代田区の東宝試写室で開かれたスタジオポノックの新プロジェクト発表会で、プロデューサーも務める西村義明代表取締役はこう話して、華々しい活躍をするヒーローではなく、一生懸命に生きている人たちを“小さな英雄”として描く必要性を訴えた。

 本来だったら、そうしたテーマを2時間ほどの長編作品にして見せていたが、「思い出のマーニー」の米林宏昌監督を擁して長編「メアリと魔女の花」を作り、2017年に公開したこともあり、西村プロデューサーは「1本の長編アニメーション映画を作るのは精魂を使う。空っぽになってしまった」と説明。また「いろいろなところで映画が作られており、配信も始まった」状況で「新しいアニメーションを作るためには、前と違った意識を持たなくてはならない」と感じたことも打ち明けた。

 「宮崎駿監督や高畑勲監督らが作り上げてきた土台の上にあぐらをかくようなものではなく、自分たちで次なるステップを作っていかなくてはならない」。そこで「アニメーションの豊かさを再発見するような場」となる短編アニメーション作りを思いつき、「ポノック短編劇場」というレーベルを創設。第1弾として、米林監督のほか、スタジオジブリで数々の長編作品に携わったアニメーターを監督に起用し、3本の短編アニメーション映画を送り出すことにした。

 ふたつ返事で「やりましょう」

 米林監督が手がけるのは、自身初のオリジナルストーリーとなる「カニーニとカニーノ」というカニの兄弟の物語。「昨年末に次男が生まれた米林監督が描けるものは、誕生の物語ではないか」と西村プロデューサーが提案して設定が作られた。卵アレルギーを持った少年が登場する作品「サムライエッグ」を手がけるのは百瀬義行監督。Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅの音楽を作る中田ヤスタカ氏が、CAPSULEという音楽ユニットで送り出した「ポータブル空港」「space station No.9」「空飛ぶ都市計画」のアニメーションPVを、スタジオジブリで監督した経験を持つ。「ジャイアント・ロボ THE ANIMATION-地球が静止する日-」のキャラクターデザインや絵コンテ、作画監督を務めるなど長いキャリアを持つ山下明彦監督も、「透明人間」という作品で参加する。

 山下監督は、三鷹の森ジブリ美術館で上映される短編アニメーション「ちゅうずもう」で初監督を務めた経験がある。スタジオジブリではこうした美術館向け短編アニメーションや、「ポータブル空港」のようなミュージックビデオなど、さまざまな短編アニメーションを作ってきたが、映画興行の中で商業作品としては展開していなかった。「ポノック短編劇場」は8月24日から東宝配給で商業作品として劇場公開される。

 東宝(東京都千代田区)の市川南常務取締役は、会見で「西村義明プロデューサーから提案を受けて、ふたつ返事でやりましょうと答えた。東宝にとっても新しいチャレンジになる」と訴えた。「ポノック短編劇場」が成功すれば、3人のベテランアニメーターに続く業界の重鎮や若手、業界以外で活躍するマンガ家や実写映画の監督といったクリエーターが参加し、短編アニメーションを作ってくれる可能性もありそうだ。

 映像の歴史に革新を

 短編アニメーションを、技術や企画を生み出すプラットフォームとして活用する動きは以前からある。「トイ・ストーリー」などのCGアニメーション映画で知られるピクサー・アニメーション・スタジオでは、長編作品の公開に合わせて短編アニメーションを併映する試みを長く続けている。気鋭のクリエーターを起用し、新しい映像表現や企画などに挑ませている。2012年の長編「メリダとおそろしの森」でアカデミー賞長編アニメ賞を獲得したマーク・アンドリュース監督は、長編「カーズ」と同時公開された短編「ワン・マン・バンド」を2005年に作り、アカデミー賞短編アニメ部門にノミネートされる成果を上げた。

 日本では、「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督が率いるスタジオカラーとドワンゴ(東京都中央区)が共同で「日本アニメ(ーター)見本市」というプロジェクトを立ち上げ、アニメーターやマンガ家、小説家、イラストレーターなど多彩なクリエーターに短編アニメーションを作ってもらい、ネットで配信する試みを行っていた。ここからは、同名の短編作品を元に「龍の歯医者」という長編作品が生まれ、「SSSS.GRIDMAN」というテレビシリーズも近く登場してくる。

 文化庁でも日本動画協会と協力し、若手アニメーターを育成するプロジェクトを「あにめたまご」という名称で推進している。企画を世に問う場にもなっており、過去に送り出した「デス・ビリヤード」や「リトルウィッチアカデミア」はテレビシリーズへと発展した。

 アニメーションに限らずショートフィルムを集めた映画祭として20回を重ね、今年からはVRによるショートフィルム部門も設けるショートショートフィルムフェスティバル & アジアの代表で、俳優の別所哲也氏は、短編作品を「新しい技術やアイデアが結晶化したもの」と評している。高い知名度を持ち、東宝のバックアップも得た「ポノック短編劇場」によって短編アニメーション映画の人気や認知度が高まれば、作られる機会も増えて表現や企画の幅が広がり、映像の歴史に革新がもたらされることもありそうだ。