DAZN参入で「解約者続出」のスカパー、どう生き残る? 頼みの綱は…

 

 「当社のプロ野球中継が極めて限定的であるかのような誤解が一部で生じている」「2018年シーズンも例年通り、巨人主催試合を含む全12球団をお届けする予定だ」--。衛星放送「スカパー!」を運営するスカパーJSATから2月20日、報道機関に向けてこんな文書が送られてきた。

 文書送付のわけは

 同社に真意を聞いたところ、「とある新聞社が、競合サービス『DAZN』と当社のプロ野球中継を比較し、スカパーの配信対象が一部の試合にとどまっているとの記事を掲載していたため、誤解を解きたかった」(プロモーション部、以下同)と説明する。

 「現在は各チームと交渉段階で正式発表はまだだが、スカパーでは12球団の全試合を放送する方針だ。プロ野球開幕前のこの時期は、契約者獲得に向けた商機。“当社がDAZNに負けた”といったマイナスの情報が広がることを避けたかった」という。

 “DAZNマネー”に屈し、Jリーグ放映権を喪失

 「DAZN」は英Perform Groupのスポーツ中継サービス。スカパーは16年末、07年から10年間にわたって放送してきた主力コンテンツ「Jリーグ」の放映権をDAZNに奪われる形になった。

 DAZNの契約内容は、10年間で2100億円という巨額。当初は中継品質に苦情が相次いだこともあったが、16年8月の参入からわずか1年で、国内の契約数が100万件を超えるサービスに成長した。

 一方、外資マネーに破れた形になったスカパーは当時、公式Webサイトに高田真治社長がファン向けに「交渉が決裂し、誠に申し訳ない」とのおわび文を掲載する異例の事態となった。

 キラーコンテンツであるJリーグ中継を失った影響で、業績面でも大きなダメージを受けた。持ち株会社のスカパーJSATホールディングスが2月7日発表した17年4~12月期の連結決算は、売上高が7.3%減の1095億円、営業利益が22.0%減の121億円、純利益は16.2%減の86億円と減収減益だった。

 同社によると、Jリーグ放映権喪失による減収分は49億円に上る。Jリーグファンが解約したあおりで、サッカー以外の視聴料収入も25億円のマイナスとなった。

 17年4~12月期のスカパー解約数は45万件。新規加入者や再加入者を獲得した影響で純減数は8万件に食い止めたが、契約者数は17年12月末で324万件と、DAZN参入前の16年6月時点(347万件)から1年半で23万件減った。

 スカパーは対応策として、海外サッカーの一部試合やハイライト、過去の名勝負、有識者の討論などを24時間配信するサッカー専門チャンネル「スカサカ!」を開設しているが、契約減に歯止めがかからない状況だ。

 プロ野球中継が頼みの綱

 こうした中、スカパーが頼みの綱としているのがプロ野球中継だ。

 スカパーは18年シーズン、セントラル、パシフィック両リーグ12球団の公式戦を全試合生放送する予定。オープン戦も100試合以上生中継するほか、各球団のキャンプ中継や情報番組も配信し、野球ファンに充実したコンテンツを届ける方針だ。

 一方、DAZNは、終了が決まっているソフトバンクの動画配信サービス「スポナビライブ」などからプロ野球の放映権を獲得し、18年シーズンからセ・パ11球団のオープン戦の一部と公式戦全試合をライブ中継することが決まっているが、読売ジャイアンツの試合には未対応だ。

 この点について、スカパーは日本テレビ系列のスポーツ専門チャンネル「日テレジータス」の放映権を持ち、18年も巨人軍の名場面集や練習風景のライブ配信なども放送予定。巨人ファン向けの番組も充実している。

 スカパーJSATは「Jリーグなき今、プロ野球がスカパーのスポーツ番組の中核だ。巨人戦にも対応しているため、多くのプロ野球ファンに見ていただきたい」と期待を話す。「前述の報道で、当社のプロ野球中継に不安を覚えたプロ野球ファンには安心してもらいたい」という。

 ネットではスカパー支援の声も

 インターネット上でもDAZNの影響は大きく、Twitterでは「DAZNの安さ(月額税別1750円)は魅力」「スカパーを見るメリットがなくなった。解約する」--といった声が挙がっている。

 その一方で、「DAZNよりもスカパーの方が画質や解説陣の質がよかった」「市場の競争がなくなってしまうため、スカパーにも頑張ってほしい」「DAZNの新CMはスカパーを批判しているのか。やりすぎだ」--といった“スカパー擁護派”も少なからず存在し、議論は過熱の一途をたどる。

 こうした状況に対し、スカパーJSATは「スカパーはDAZNと比較されがちだが、そもそも両者の強みは異なっている」とみている。

 「DAZNはスポーツに特化し、個人がスマートフォンやタブレットで視聴する形態が中心のサービス。スカパーは映画、演劇、アニメ、音楽など、さまざまな専門チャンネルを持ち、家族がテレビを囲んで楽しむものだ」という。

 同社は「今後もDAZNや他社の動向に左右されず、プロ野球好きや家族など、当社ならではのファン層に充実したコンテンツを届けていく」と強気の姿勢を見せる。

 ただ、スポーツ以外の動画ストリーミングサービスでも、米Netflixや米Huluの台頭が著しい。20年超にわたって衛星放送を届けてきたスカパーは、勢いに乗る海外発サービスに負けずに業績を立て直すことができるのだろうか。