日本の製造業、デジタル革命で巻き返し 工場IoT化、日立は生産期間半減
ICタグやカメラを駆使して得た情報を人工知能(AI)で解析し、生産効率を飛躍させる-。2018年はあらゆるモノがインターネットとつながる「IoT(モノのインターネット)」によって、日本の製造現場の革新がより具体化して進みそうだ。電機大手の日立製作所は生産期間の半減を実現するシステムを開発し、社外への売り込みも始めるなど、多くの企業で技術開発も加速する。昨年、相次いだ品質管理問題で現場力の低下が指摘される日本の製造業だが、生産技術のデジタル革命は巻き返しの勝機となるか。
ICタグ8万個稼働
「昔は現場の職長が経験に基づいて判断し、指示していたけど、今はモニターで一目で分かりますよ」
日立で発電所や上下水道などインフラの頭脳である制御装置を生産する大みか事業所(茨城県日立市)。作業員は現場での仕事がIoTの導入で様変わりしたと語る。職長の腕次第で、工程遅延の改善に以前のように時間がかかることはなくなった。
ブレークスルーとなったのは「見える化」だ。具体的には、制御装置の部品に無線識別(RFID)機能を持つICタグが付けてある。常に8万個のICタグを稼働させ、事業所内のモノの流れをほぼ完全につかんでいる。
多くのスイッチやプリント基板などを手作業で組み立てるラインでは、作業指示書を設備の端末にセットすると作業時間を計測し、人や設備の状況も把握。ICタグも含めて収集したデータを基に作業の計画と進捗(しんちょく)をグラフで表示する。予定よりも作業が遅れそうな工程は一目瞭然だ。その際は「他工程から人を出して遅れを挽回できる」と作業者は説明する。
目を引くのはICタグだけではない。各作業者の周囲には8台のカメラが設置され、さまざまな角度から常時撮影されている。作業に遅れがあれば、その部分の映像だけを再生して、遅れの原因を検証し、即改善できる。
「制御装置の生産期間は180日から90日に半減した」
15年から始めたIoTによる生産改革の成果に、大みか事業所の小林毅所長は胸を張る。制御装置は顧客ごとに一品一様で仕様が異なるため、生産性の改善が難しかった。だが、今や大みか事業所は日立のデジタル生産改革の総本山だ。今後は「AR(拡張現実)を活用した組み立て支援なども視野に入れる」と意欲を示す。
日立はIoT関連サービスの拡大を成長の牽引(けんいん)役に据える。大みか事業所で開発したシステムは、工作機械大手のオークマが17年3月末に稼働した工場にも採用され、生産性を従来の2倍に引き上げた。日立は今後、他社への販売にも本腰を入れ、19年3月末までに100工場への導入を目指す。
IoTを活用した生産改善でトヨタ自動車とも協業を開始。東原敏昭社長は「顧客の技術革新のパートナーになるのが日立の方向性だ」と強調する。
IoTによる製造現場のデジタル改革に商機を見いだすのは日立だけではない。三菱電機は鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)で19年10月に稼働する人工衛星の組立工場にIoTを導入し、コストや生産期間を従来と比べ3割削減する生産技術の革新に挑む。
設備にセンサーを組み込むなどして作業の「見える化」を進めるほか、鎌倉製作所内の設計棟や衛星機器を生産する相模工場(同相模原市)とネットワークで連携し、設計や作業データを常時やり取りして生産性向上につなげる。柵山正樹社長は「まずはIoTを全事業所に展開し、高い成果を上げた上で他社にも展開したい」と意欲を示す。
各社がIoT開発に注力するのは、高い成長が期待できるからだ。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、IoTの世界市場規模は30年には16年の約2倍の404億円に達する見通しだ。一方、日本生産性本部によると、00年に米国に次ぎ2位だった日本製造業の労働生産性は17年に20位まで下落した。欧米の強さの原動力は生産性を大きく高める工場のIoT化とされる。強い現場でアナログの「カイゼン」に頼りすぎた日本は投資が遅れており、デジタル革命が日本製造業の浮沈を握るとの見方もある。
欧米勢と開発競争
IoTによる生産改善は日立など日本勢だけでなく、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスも力を入れており、センサーで機械の不具合を未然に検知したり、設備や拠点間をつないで情報をやり取りして、コストを下げる技術などで先行する。IoT技術をめぐる開発競争はさらに激しさを増しそうで、日本勢が勝ち残るのは並大抵ではなさそうだ。(万福博之)
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