丸の内を自動運転バスがゆく オフィス街での乗り心地は…記者が試乗ルポ
ソフトバンクと三菱地所は22日、自動運転バスの実用化に向けた実証調査の一環として、企業が集積する東京・丸の内で試乗会を実施した。東京・23区内の公道を自動運転車両が走行したのは初めて。乗り心地を確かめようと、記者も試乗してきた。
これって本当に「バス」なの?
試乗コースに選ばれたのは、高層オフィスビルが林立する丸の内の目抜き通りの一つ、「丸の内仲通り」。平日は多くの車が行き交うが、いつもと様子が違う。この日のために特別に交通規制が敷かれたからだ。
スタート地点に向かうと、バスというにはあまりに小ぶりな車両が1台停まっていた。カラーは紅白が基調で丸っこいボディー。フロントのデザインも愛嬌があり、どこか犬の顔を思わせる。なんとなく渋谷周辺を走るコミュニティーバス「ハチ公バス」をほうふつとさせると感じた。実際に街を走れば子供たちも喜びそうだ。
ソフトバンクグループのSBドライブ社が所有する自動運転シャトルバス「ナビヤ アルマ」は、フランスのナビヤ社が開発した電気自動車(EV)。世界で60台、25カ国で10万人以上がこれまで試乗したという。座席数は11で、15人乗り。全長は4メートル75センチで、ちょっと大きなワゴン車というイメージだ。
記者の順番になり、さっそく乗り込む。「うわっ、狭い」。外から見ていた以上に圧迫感を感じる。座席に座るとなおさらで、成人男性が隣同士だとちょっと窮屈かもしれない。
さすがEV、社内は静か…でも少し物足りず
一方で、窓は大きくとられ、とても開放的。この日は天気も良く、明るい車内は気分も弾む。全高も2メートル65センチしかなく、おかげで外の様子がよく見える。ふだん歩き慣れている仲通りだが、バスから眺めるのは不思議な気分だ。外からも同様のようで、こちらに気づいてびっくりした様子のビジネスマンやOLも。
バスらしくつり革もあった。それでもどこかバスでないような違和感。それもそのはず、自動運転だから運転手は当然いない。ハンドルもない。記者以外にもどこか戸惑っている報道陣は少なくなかったようだ。
ベルが鳴ってバスがそっと動き出した。社内もEVらしく静かで、ノイズがほとんど気にならないのは快適。ときには隣同士大きな声を出さないと話ができない一般のバスとはまったく違う。
「ナビヤ アルマ」は衛星利用測位システム(GPS)で走行位置の座標を検出し、レーザースキャナーで障害物を検知しながら走行する。実際、微妙な加減速を感じることができた。
ただ、楽しい時間はあっけなく過ぎてしまう。実は、この日の走行コースは直線のみのわずか40メートル(!)を往復するだけ。今回はおそらく自転車並みの低速に抑えられていたが、それでも片道約30秒ほどでゴール地点に着いてしまった。できればもっと乗り続けて、丸ビル(丸の内ビル)や東京駅など、東京の名所・スポットを巡回したかったというのは本音。
都市部の交通インフラ改善の切り札になるか
それでも、報道陣以外に一般参加者も体験できる試乗会とあって、事前応募で当選した大勢の人が、“近未来バス”に続々と乗り込み、つかの間のドライブを楽しんでいた。
だが、今回の試乗会は、実は重要な社会実験の一環でもある。主催者の少し堅い
説明によれば、「持続可能な将来の都市交通構築の一歩として、交通規制をかけ、一般車両の進入がない専用空間での自動運転の性能・運用の実証と、一般の方に試乗いただくことにより、その受容性を調査するため」という。
東京や大阪など大都市では、運転手不足や路線の維持など交通事業者が多くの悩みに直面している。関係者らは、今回の都心部での実験を通して、一般利用者の理解を促し、自動運転バスの実用化による公共交通の改善につなげたいとしている。
試乗会に合わせて実施されたセレモニーには、丸の内地区で再開発を手掛けてきた三菱地所やソフトバンク、東京都など自治体関係者が顔をそろえた。ソフトバンクの今井康之副社長は「社会インフラでもテクノロジーを活用し、暮らしを向上させたい」と強調。三菱地所の湯浅哲生執行役常務は、自動運転バスを活用して「丸の内が持っているポテンシャルを推進していきたい」と語った。
この日も、車両のトラブルで急きょ予備車両が投入されるなど、実用化に向けてはクリアすべき課題も少なくないだろう。それでもそう遠くない日に、無人の自動運転バスが日本の大都会を走り回っているかもしれない。(SankeiBiz 柿内公輔)
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