マック躍進、米国流決別が出発点 「V字回復」にカサノバ社長の発想転換
V字回復を成し遂げた日本マクドナルドが躍進を続けている。調達先の中国企業が起こした期限切れ鶏肉問題でイメージが悪化し、一時は3年連続の最終赤字に陥ったが、2017年12月期の最終損益は上場以来最高となる200億円の黒字を見込む。問題発覚以降、トップダウン型経営を改め、地域ニーズ把握や他社との協業など消費者目線に立った取り組みで商品の幅を広げたことが信頼回復につながった。収益力向上を弾みに来期は再び店舗拡大路線に転換する。
被害者の立場強調
「マクドナルドは、必ずよみがえると信じていた」
サラ・カサノバ社長は3年前の心境をそう振り返る。しかし当時、多くの日本人にとって社長就任2年目のカサノバ氏のイメージは良くなかった。
問題発覚後の14年7月末の記者会見で、カサノバ氏は陳謝しながらも「マクドナルドは(取引先に)だまされた」と釈明。同じ中国企業の鶏肉を輸入していた大手コンビニエンスストアの影響は限定的だったにもかかわらず、カサノバ氏は被害者の立場を強調して反感を招き、多くの客を失った。
消費者心理を逆なでしたこのコメントについて、同社幹部は「米マクドナルド本社のスタンスに従わざるを得なかった」とカサノバ氏を擁護する。
だが、米国流を押し通しても日本の商売は当然うまくいかない。翌15年1月には「泣きっ面に蜂」となるデザートへの異物混入問題も起き、客足はさらに遠のいた。
反省したカサノバ氏は、メディア対応の訓練に励んだという。外見についてもロングヘアを束ね、目力を強調しやすい黒縁メガネを縁なしに変更するなど「柔和なイメージ」へ変貌させた。さらに、全国の店舗を足しげく回り、「ママの声」を聞くといった地道な取り組みを続け、失った客の信頼を取り戻そうと努めた。
幹部会議は日本語
カサノバ氏には通訳が常時つくため、幹部会議は基本的に日本語で行われる。意外なことに、米本社との意思疎通を重んじた原田泳幸前社長時代と比べ、英語での会議は減ったという。
「原田さんは、良くも悪くもトップダウン。現場(店舗)にもあまり姿を見せず、組織の風通しは決して良くなかった」。ある幹部はこう打ち明ける。原田氏は米アップル日本法人の社長から04年に転身し、業績不振だったマクドナルドを8年連続で成長させたプロ経営者のはしりだ。これに対し、カサノバ氏は大学院でマクドナルドに関する企業論文を書き、カナダ法人のトップに手紙を送ってまでして入社を果たした経歴の持ち主だ。当然、カサノバ氏の方が「マクドナルド愛」は深い。
原田氏とカサノバ氏の経営方針の違いは、そうしたウエットな側面だけではない。
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■地区本部制復活、FC要望に対応
原田氏は、本社直営が大半だった店舗のフランチャイズ(FC)化を加速する一方、「地区本部制」を廃止して中央集権型の経営を推進。2011年には過去最高の営業利益281億円をたたき出したが、そこが頂点だった。
中央集権型では地域ごとのニーズに対応しきれなかったこともあり、12年以降は業績が低迷。13年8月にカサノバ氏が社長に就任し、原田氏が代表権のない取締役会長となった。カサノバ体制で、廃止された地区本部制を復活。東日本、中日本、西日本の3地区それぞれに執行役員を配置し、店舗運営や人材育成などFCオーナーの要望に対応できるよう改めた。
他企業とコラボ
消費者の好みが細分化した中、中央集権型から地域密着型へと改めたプラス効果は大きい。「私が一番驚いた変化は、かつて“孤高の巨人”のような存在だったマクドナルドが、他の企業とコラボレーション(協業)するようになった点だ」。こう語るのは、外食業界に精通するいちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員。
その最たる例が16年に始めた人気スマートフォンゲーム「ポケモンGO」との協業だ。今年もマックシェイクの「ミルクキャラメル味」(森永製菓)や「カルピス味」(アサヒ飲料)、ローソンやすかいらーくと3社協業でハワイ風を打ち出した「ロコモコキャンペーン」など、枚挙にいとまがない。
協業以外の新商品も含め、以前は同時並行で行うこともあったキャンペーンを毎週のように催すようにした。話題が途切れないようアピールする狙いだ。
さらに「かつてはマクドナルドから消費者への『一方通行』だったマーケティング戦略を、『双方向型』に変えた効果も大きい」(鮫島氏)という。
17年初めの人気メニュー「総選挙」や、東西で異なるマクドナルドの愛称(マック、マクド)をそれぞれの期間限定ハンバーガーへのツイート数で競うキャンペーンなどが、その代表例だ。
一連の戦略を担う足立光上席執行役員マーケティング本部長は、若者にとってのインフラであるツイッター(短文投稿サイト)で話題の拡散を図り、キャンペーン開始後はテレビCMで一気に広げた。その成功の秘訣(ひけつ)をこう明かす。
「『消費者参加型』であり、同時に『ツッコミどころ満載』であること。いやでも(消費者の)頭の片隅に引っかかるようにすることが鍵だ」
来年以降に店舗拡大
こうした試みが奏功して、16年12月期に最終黒字に転換。V字回復を成し遂げたカサノバ氏は、今年8月の6月中間決算の記者会見で「ビジネスの基盤ができた。投資をさらに増やす」と語り、来年以降に店舗拡大へ転じる考えを示した。
マクドナルドは、02年の3891店をピークに店舗数を減らし続けてきた。今年9月末時点で2897店と約3割も規模が縮んでいる。収益力を確保するため不採算店を整理してきたが、来年に出店数が閉店数を上回れば10年ぶりの純増となり、大きな転換点を迎える。一方で、業界全体が直面している人手不足や長期的な人口減少など課題も多い。
カサノバ氏は、全国の顧客との対話を通じ「マクドナルドに求められているのは、安さより楽しさだ」と分かったという。その魅力を保ちつつ、拡大路線の軌道に再び乗ることができるかどうか、引き続き同氏の手腕に多くの視線が注がれている。(山沢義徳)
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