【高論卓説】欧米で過熱化する「自動車2.0」 日本勢は時代の変化かぎ分け必須
11月末の米サンフランシスコには、ゼネラル・モーターズ(GM)の「インベスターズ・ディ」に世界の投資家が集結した。同社の成長戦略の要である自動運転技術のお披露目やビジネスモデルの発表に加え、買収した自動運転のソフトウエア開発会社クルーズ・オートメーションが手掛けるレベル4(高度自動運転)の自動運転車の試乗会も実施された。
GMのバーラ最高経営責任者(CEO)は、電気自動車(EV)「Bolt(ボルト)」をベースに開発中のレベル4の自動運転車を用いて、2019年に無人配車サービスをサンフランシスコで開始すると高らかに発表した。ビジネスの成否を占うには時期尚早だが、19年に開始するというメッセージは強いインパクトがある。
9月には、独フランクフルト・モーターショーでフォルクスワーゲン(VW)がEV拡大を目指した「ロードマップE」を公表した。VWグループで30年に向けて200億ユーロ(約2兆7000億円)を電動車両に投資する。25年に150ギガワット時(米テスラのギガ・ファクトリー級工場が4個分)の電池を購買し、30年までに500億ユーロに上る過去最大の電池関連の購買政策を実施するという。
自動車産業が過去に経験したことがない技術革新に直面していることは周知の事実であろう。技術はエレクトロニクス化され、自動車の付加価値の多くの領域がソフトウエア化されている。自動車はもはやデジタル製品となってきた。IT化、知能化、電動化の3つの技術革新が加わり、ビジネスモデルと価値の大変革期を迎えている。
その戦略的な方向性は、「つながる化=C」「自動運転=A」「シェアリングエコノミー=S」「電動化=E」の頭文字を並べた「CASE」に整理され、ここ数年、自動車産業は革命前夜のような緊張感に包まれてきた。
人工知能(AI)、センサー、半導体などの要素技術の進化は加速している。自動運転技術は想定より早く確立される可能性が高い。そして米国の多くの消費者は、初期段階の自動運転に基づく新しいビジネスを受け入れる可能性がある。
米国の多くの空港では、配車やライドシェア・サービスのクルマを大勢の旅行者がイライラしながら待っている。これが本当に安全・安心な無人自動運転に置き換わるなら、革命的なシェアエコノミーを創造する契機となり、製造業からサービス業へ、GMのように業容転換を急ぐ必要があるだろう。
17年の世界の株式市場は、革命を目指す企業へ高い価値を見いだし、一方、伝統的なビジネスを守ろうとする企業の評価を切り下げてきた。GMの株価は11月30日時点で年初から23%、VWが25%、BYDは69%も上昇した。トヨタ自動車は2%にすぎない。
株式市場が期待するように変革が短期的に起こるか、あるいは期待先行にすぎず秩序ある段階的な革新にとどまるのか、見通しへの確信度は現段階では低い。そうは言っても、長期的には「CASE」の方向性を疑うものではなく、想定以上に変化が早まり、18年は激変の年となる可能性があるだろう。
自動車は産業の王者として君臨してきた。ビジネスモデルは安定的で、時には国家にも保護され、秩序ある革新を積み上げてきた。巨大産業だけに、「秩序を大切にした変化を遂げるはずだ」と考える楽観論に甘えてはならない。国内自動車産業は迎える時代の変化をかぎ分け、将来を見据えて戦略的に進むことが大切である。
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【プロフィル】中西孝樹
なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト。米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立。著書に「トヨタ対VW」など。
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