東レ子会社もデータ改竄 「特別採用という慣習も動機に」 揺らぐモノづくりの根幹

 
東レハイブリッドコードが製品検査データの書き換えを行った件で会見する、東レの日覚昭広社長=28日午前、東京都中央区(寺河内美奈撮影)

 神戸製鋼所と三菱マテリアルに続いて東レグループでもデータ改竄(かいざん)が発覚し、素材メーカーの不正が相次いでいる。これらの不正からは、現場のモラル低下や消費者軽視、縦割り組織の弊害といった、共通の問題が浮かび上がる。世界有数の技術を誇り、自動車など幅広い産業を支えてきた素材産業が力を失えば、日本のモノづくりの根幹が揺らぎかねない。

 「特別採用という慣習も動機になった」

 不正を行っていた東レハイブリッドコードの鈴木信博社長は28日の会見で、特別採用(トクサイ)と呼ぶ日本独自の商慣行が隠れみのになったとの見方を示した。

 同社は、顧客が了承すれば契約の品質に満たなくても納められるトクサイを悪用。性能が満たないのに正規品と偽っていた。同様の悪用は神戸製鋼と三菱マテリアル子会社でも発覚、契約順守や安全優先の意識が薄れつつあることがうかがえる。

 日本の素材各社は、衰退が目立つ電機に比べると経営が安定している。だが近年はM&A(企業の合併・買収)で世界規模の巨大メーカーが相次ぎ誕生し、中国勢も台頭。押された日本メーカーは、技術頼みの姿勢を強めている。

 東レの不正は、再検査などの煩雑な作業を嫌ったのが動機という。収益確保が難しくなり、技術的なハードルも高まる中、納期順守のプレッシャーを感じていた可能性もある。

 神戸製鋼は、傘下にアルミ・銅など7つの事業部門を抱える。三菱マテリアルは事業別に4つの社内カンパニーを設け、権限を大幅に委譲していた。東レも多くの事業を抱え、子会社を含む事業部間の人事交流はあまりないという。縦割りの組織は閉鎖的な風土を生み、経営陣の監視の目も行き届きにくい。

 さらに、消極的な情報開示姿勢でも3社は共通している。東レの日覚昭広社長は「神戸製鋼などの問題がなかったら公表しなかったのか」との問いに対し、顧客企業との契約であることを理由に挙げつつ「しなかった」と述べた。そこには企業相手のビジネスを手がける素材メーカーが陥りがちな、消費者軽視の姿勢も見て取れる。(井田通人)

 ■素材メーカーで相次ぐ不正

 10月 8日 神戸製鋼所がアルミ・銅製品のデータ改竄を公表

    11日 同社が鉄粉や金属材料のデータ改竄を公表

    13日 同社が鉄粉以外の鉄鋼製品のデータ改竄を公表。川崎博也会長兼社長が改竄発覚後初めての記者会見

    20日 同社が長府製造所の社員による隠蔽を公表

    26日 同社が安全検証の結果を初めて公表。銅管子会社のJIS認証が取り消し

    30日 同社が2018年3月期の連結最終損益予想を撤回

 11月10日 同社が原因究明の結果と再発防止策を公表

    15日 同社の銅管子会社でISOの認証が取り消し。真岡製造所など3拠点でもISO認証の一時停止措置

    23日 三菱マテリアルが電線、伸銅、アルミ子会社のデータ改竄を公表

    24日 同社の竹内章社長が記者会見

    28日 東レがタイヤ補強材子会社のデータ改竄を公表。日覚昭広社長が記者会見