窓用断熱材、高い透明性と軽量化実現
eco最前線を聞く□ティエムファクトリ・山地正洋社長
京都大学発の素材開発ベンチャー、ティエムファクトリ(東京都江東区)は、透明性が高い窓用断熱材を工業材料化する事業を本格的に始めた。京大との共同研究で、軽量で断熱性が極めて高いエアロゲルという固体を使い、透明化したものを板状にして窓の断熱材として活用する。断熱材の名称は「SUFA(スーファ)」で、透明な窓にサンドイッチのように挟むだけで従来の断熱材をはるかにしのぐ性能が得られるという。
実用化に向け大手の建材メーカーと共同開発を進めている山地正洋社長に抱負を聞いた。
◆住宅北側にも窓設置OK
--エアロゲルとは
「直径数十ナノ(1ナノは10億分の1)メートルの穴が無数にあいた多孔質状だ。その体積の90%程度は空気でできている。だから透明で非常に軽い。断熱性能は単板ガラスの4倍にもなる」
--窓ガラスに使用した場合のメリットは
「窓材は、1つでも数百キロに達するケースもあるので、施工の際には大人数で運ぶ必要がある。しかし、スーファを使用すれば大幅な軽量化が可能になる。しかも戸建て住宅で採用されると、寒さ対策から窓がなかった北側にも設置でき、もっと採光しやすくなるなど、戸建て住宅の付加価値を高めることになる」
--開発のきっかけは
「当社は京都大大学院理学研究科の中西和樹准教授の研究成果をもとに生まれた大学発ベンチャーだ。私が研究員として在籍中に、『これほど素晴らしい素材はない』と思い、事業化に人生を懸けることにした。その後、スーファの発明者である會澤守氏も最高技術責任者(CTO)として迎え入れた。また、特許のライセンス実施権を、京大系TLO(技術移転機関)である関西ティー・エル・オー(京都市下京区)から取得した」
--実用レベルにまで高める段階でさまざまな課題があった
「十分な強度を得ることが難しかった。一般的にエアロゲルは少しでも曲げると割れる。研究室レベルでは強度よりも断熱性向上が最大のテーマだが、それでは建材としては使えない。そこで京大理学部と共同で研究を進め、エアロゲルの分子レベルでの組成を組み替えることにより、柔軟性を高め解決した。窓ガラスやサッシに使う場合、ガラスとガラスの間に挟み込むかたちで使えば、強度も断熱性も確保できることが分かった」
◆YKKAPと共同研究
--YKKAPとの共同開発に取り組んでいる
「ベンチャー1社だけで、全ての技術課題の解決は困難と考えた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による起業家向け顕彰制度に採択されたのを機に、ビジネスプランを磨き、数多くのコンテストに出場した。その後、2017年4月にYKKAPと共同研究契約にこぎ着け、スーファを使った窓ガラスの耐久試験などを行っている。20年には量産化する予定だ。原材料となる粉末タイプは、来年度から材料メーカーなどへ供給を始める」
--生産体制は
「研究拠点となる京都市内2カ所と東京都内でサンプルの生産を行っている。既に自動車部品などの多くのメーカーからの引き合いが入り、生産が間に合わない状態になっている」
--量産をどう進めるのかが当面の経営課題だ
「複数のベンチャーキャピタルや事業会社などを引受先とする2回目の第三者割当増資を検討している。年内をめどに3億~5億円程度調達し、量産化技術の確立につなげたい」(松村信仁)
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【プロフィル】山地正洋
やまぢ・まさひろ 慶大院理工学研究科にて博士号取得。2004年物質・材料研究機構、05年産業技術総合研究所などを経て、11年から京都大学研究員に在職。12年11月にティエムファクトリを設立し、社長に就く。41歳。茨城県出身。
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