美少女や食品…ロボが触れたものの硬さや匂いが操縦者に伝わる最新VR技術

 
チョコや香水の匂いが漂う「VR サクラ」

 ヘッドマウントディスプレーを装着してVR(仮想現実)の世界に没入する。そんな体験が容易になった現在、関心を集めているのが視覚や聴覚以外の感覚を、どうやって付け加えていくかといったこと。遠く離れたロボットが手にした物体の感触を得る、VR空間に登場する物の匂いを感じるといった体験を可能にする技術が出てきて、仮想の世界を現実へと近づけている。

 操作者がイスに座ってVRヘッドマウントディスプレーを装着する。両腕を機械のアームにセットし、指先にも装置をつけて動き始めると、横に置かれたロボットの腕や指が同じように動く。操作者が頭を振ると、ロボットの頭部にあるカメラが動いて、前にペットボトルと重ねられたプラスティック製のコップが置かれていることを伝える。操作者が両腕を動かすと、ロボットの腕が連動するように動いてペットボトルをつかみ、傾けてもう片方の手につかんだコップに水を注ぐ。

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と慶應義塾大学が開発し、9月28日に発表した身体感覚を伝送可能な双腕型ロボット「General Purpose Arm」の操作デモ。10月3日から6日まで、千葉市美浜区の幕張メッセで開かれたCEATEC JAPAN 2017でもデモが行われ、ロボットがここまで出来るのかといった驚きを感じながら見守る人が多かった。

 ロボットを操縦して戦うアニメやドラマを見慣れた目には、どこが凄いのかが分かりづらいが、現実の世界でこうした動作を行うことは難しかった。物を持ち上げようとする時、対称が硬ければしっかりと掴み、柔らかければ優しくつまむ必要がある。人間なら目で対称が何かを確かめ、触れて硬さを感じた上で力を調整し、壊したり落としたりしないように掴むが、ロボットにはそうした調整が難しかった。

 「General Purpose Arm」は高精度の力触覚技術を搭載することで、ロボットが物に触れた感触を操作者に伝え、その感触を元に強さを調整してしっかり持ったり、優しく持ったりを切り換える。VRヘッドマウントディスプレーを通すことで、ロボットのカメラがとらえた視線をそのまま操作者の視野にできるため、人間が入れないような危険な場所、遠く離れた場所にロボットを置いて、遠隔操作で繊細な手の動きを必要とする作業を行えるようになる。

 ロボット自体が映像情報から対象物の硬さや種類を判別し、選び分けるような使い方も可能だ。選果作業の現場で腐って柔らかくなった果物を選別して掴み取る運用が行われている。強く握り過ぎると潰れてしまう果物も、このロボットなら潰してラインに汁を散らすことなく取り除ける。同じ白いキューブでも、樹脂、紙粘土、豆腐といったそれぞれに硬さの違った物体を感じ分け、掴んで並べ直すロボットも出てきた。産業だけでなく福祉や医療といった現場で、触覚を感じながら行いたい作業に活用できそうだ。

 CEATEC JAPAN 2017では、埼玉大学も電気刺激による身体感触覚通信制御の展示を行っていた。背中合わせに座った2人のうち、操作者の1人が腕を曲げると、もう1人の非操作者の腕が同じように曲がる。筋肉の動きを信号に変えて伝え、もうひとりの腕に貼られたパッドから電気を流して筋肉を刺激し、収縮させて操作者と同じ動きを再現している。

 非操作者が腕の動きを止めようとすると、今度は操作者の方に抵抗感が戻され動きが止まる。離れた場所にいる人やロボットの腕を操作し、その触覚を自分自身でも感じながら作業を遂行することが可能になる。こうした遠隔地や仮想空間で視覚や聴覚に加えて触覚を発生させる技術は、VRやロボットの使用範囲を大きく広げそうだ。

 VRコンテンツに匂いを加える動きも出てきた。匂いを発生させるデバイスのVAQSO VRを開発・展開しているVAQSO Inc.が、9月21日から24日まで幕張メッセで開催された東京ゲームショウ2017に出展し、匂いが楽しめる9種類のVRタイトルを並べて体験してもらっていた。

 VAQSO VRはVRヘッドマウントディスプレーにセットし、コンテンツの進行に合わせてシーンにマッチする匂いを漂わせる薄い箱形のデバイス。ゲームブランドのイリュージョンが展開していた「VRサクラ」の場合は、仮想の室内空間に現れる3DCGで描画された美少女の前でスイカを割ると、スイカの匂いが漂ってくる。

 美少女がチョコレートスティックをくわえて差し出してくる時はチョコレートの匂い、美少女の胸元に顔を近づけ埋めた時には香水のような甘い匂いが感じられる。シータが展開していた「透明少女」という、こちらは実写の美少女が登場するVRコンテンツでも、目の前に迫ってくる美少女の顔といっしょに甘い香りを体験できる。

 クリーク・アンド・リバー社の「激烈 おとっつぁんのちゃぶ台返し ~避けてちゃぶだい!?~」は、VR空間の奥に現れたオヤジがちゃぶ台をひっくり返すと、食べ物が飛んでくるため、プレーヤーはVRヘッドマウントディスプレーを装着した頭を動かし、視線の先に現れる口のマークを合わせて食べていく。その途中で、飛んでくるサンマや唐揚げなどの匂いが漂ってくる。嗅覚の追加が仮想世界での体験を深くする。

 視覚と聴覚をさらに強化しようとする動きも。NTTドコモがCEATEC JAPAN 2017に出展していた8K60fps高品質パノラマVRを実現するVRヘッドマウントディスプレーは、クリアな8K映像が今まで以上に映像世界に没入させてくれる。ヤマハが開発した音響技術は、演奏が聞こえてくる方向に頭を振ると、演者が見えてそこから音が聞こえてくるといった具合に、現実世界と同様の臨場感を与えてくれる。

こうした、よりリアルに近づけようとする動きと、嗅覚や触覚など新しい感覚を付け加えようとする動きが重なった先、仮想世界はより大きくなり、現実へと近づいていく。