【高論卓説】東芝に眠るもう一つの“火薬庫” 米LNGでも1兆円損失の恐れ

 

 ■誤算の米LNG、1兆円損失の恐れ

 東芝は9月28日に半導体子会社「東芝メモリ」を米投資ファンドのベインキャピタル、韓国半導体大手SKハイニックスなどを中心とした「日米韓連合」に売却することを決定した。売却価格は2兆円に上る。東芝メモリの売却により、1兆800億円(税引き前)の財務改善効果が期待でき、課税の効果を勘案しても株主資本を7400億円押し上げ、債務超過を脱することができる。

 しかし、それで東芝の抱える問題が全て解決するわけではない。東芝には米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)の破綻に匹敵する危機が眠っている。それが2019年9月から年間220万トン、20年間にわたって販売することになる米国産の液化天然ガス(LNG)だ。東芝の説明によると、最大で1兆円の損失が発生する可能性があるという。東芝はなぜ、「土地勘」がないLNG事業に進出したのか。

 11年の東日本大震災以降、原子力発電所の建設がストップ。建設中の原発はコストオーバーランを起こし、東芝の財務内容が悪化した。原発事業は将来性が期待できない状態に陥っていた。そこで佐々木則夫副会長(当時)の出身母体である重電部門は調達コストの高騰が続く燃料に着目した。

 米国産のLNG、いわゆるシェールガスは原油や他の天然ガスに比べて安く世界中で注目されていた。東芝は火力発電のタービンとこれを抱き合わせで販売し、頭打ちになる原発事業に取って代わる事業にしようと夢見ていたようだ。

 「米国産LNGの調達を希望する電力事業者などの需要家に対し液化役務を提供することで、発電システム事業の拡大につなげるとともに、エネルギー最適活用に貢献していくつもりだった」(広報担当者)。東芝は、日本の需要家が価格競争力のある米国産LNGを調達できるよう日本政府の支援を仰いでいたという。

 だが米国は日本のような自由貿易協定未締結国には許可がなければ輸出ができない。そのような中で米フリーポートLNGエクスパンションは米エネルギー省に自由貿易協定未締結国向けLNG輸出の許可を申請し、13年に承認された。そして東芝は、フリーポートLNGエクスパンションの子会社、FLNGリクイファクション3(FLNGQ3)とLNGの加工契約を締結すると発表した。

 しかし、事態は思うように進まなかった。原油価格の下落が東芝を厳しい局面に追い込んだ。「LNGは通常、原油価格にリンクして価格が決定されます。ところが、米国産のLNGは別。米国内の天然ガス価格がベースとなる」(経済産業省関係者)。そのため、原油価格が下がればLNG全体の価格が下がり、米国産LNGのうまみはどんどんなくなる。その結果、米国産LNGは東芝にとって厄介なお荷物となってしまった。

 当面は東京電力ホールディングスの子会社と中部電力が共同出資する燃料・発電事業者、JERA(ジェラ)と販売やマーケティング活動を支援してもらう契約を結んだというが果たしてどれだけ売れるのか。東芝の危機はまだまだ続く。

【プロフィル】松崎隆司

 まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。著書は多数。7月に「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」を出版。54歳。埼玉県出身。