鳥貴族を28年ぶり値上げに追い込んだ「第3の理由」 主因は人件費と食材費だが…

 
鳥貴族は280円均一という安さと品質が人気で、遅い時間までにぎわった=東京都杉並区

 「280円均一」という低価格を売りにしている居酒屋チェーンの鳥貴族が、28年ぶりに値上げに踏み切り、1日から一律298円(税別)となった。値上げは、慢性的な人手不足による人件費の高騰と、天候不順による食材費の上昇という“ダブルパンチ”に見舞われたからだ。さらに最近、お酒をめぐる「ある規制」が、同社の低価格戦略に追い打ちをかけたというのだが…。

 鳥貴族は、280円の均一価格という分かりやすさと、安さなどを武器に人気だ。9月中旬、東京都墨田区の鳥貴族では、午前0時近くになっても店内は満員だった。都内に住む30代女性は、「鳥貴族には仕事帰りに同僚と一緒にときどき来店する。値上げは残念」とこぼした。

 消費税の導入時以来

 創業者の大倉忠司社長(57)が1985年、大阪府東大阪市の近畿日本鉄道(近鉄)俊徳道(しゅんとくみち)駅前に1号店をオープンし、鳥貴族はスタートした。当初は「全品250円均一」だったが、89年4月に消費税(3%)が導入されたタイミングで280円均一に値上げした。しかし、変わらない品質と安さで人気は衰えなかった。

 その後、消費税は97年4月に5%、2014年4月に8%に引き上げられたが、全品280円均一を守り抜いた。その間、05年に東京都に初進出するなど人気は全国に広がる。

 大倉社長は「280円均一の感動をコンセプトに、単一業態で展開している」とホームページ上にメッセージを寄せている。それだけ280円均一にこだわってきたのだ。

 今回の値上げの主な理由について、鳥貴族の広報担当者は「人件費を中心としたコスト上昇が続いているほか、天候不順による野菜を中心とした仕入れ価格高騰の影響がある」と説明する。

 企業努力はしてきた。タッチパネル式の注文システムを順次導入するなど、人手をかけないで済むよう業務を改善。しかし、コスト削減以上に人件費の上昇が進んだ。求人情報のリクルートジョブズ(東京都中央区)によれば、3大都市圏(首都圏・東海・関西)の8月のアルバイト平均時給は前年同月比で2.7%高い1014円と、06年1月の調査開始以来、最も高かった。

 さらに、8月の長雨の影響もあり、国産野菜などの価格が上昇。農林水産省の食品価格動向調査(9月18~20日、全国平均)によれば、平年(16年度までの5年間の平均価格)に比べて、トマトは31%、キャベツは10%も高い。鳥貴族は「今後も仕入れ価格の高騰リスクが残る」(広報担当者)としている。

 外食業界では、すかいらーくも一部メニューの10月中旬からの値上げを検討するなど、価格改定の動きがじわりと広がっている。その主な理由は、やはり人件費や食材費の高騰だ。

 酒類仕入れ価格上昇

 だが、今回の鳥貴族の値上げには、もう一つ別の理由がある。

 その理由というのが、6月から始まった「酒の安売り規制強化」だ。今回の改正酒税法は、居酒屋は規制の対象ではない。それにもかかわらず、「影響が出ている」(大手居酒屋チェーン幹部)という。

 酒の安売り規制強化は、採算を度外視するような安売り業者に対し、酒類販売免許の取り消しなど厳しい処分を規定する。ディスカウント店などの安値攻勢で経営が苦しい“町の酒屋さん”を救うことを想定している。

 規制対象は、酒類販売免許を持つスーパーやディスカウント店のほか、居酒屋などに酒を納入する業務用酒販店や卸業者なども含まれ、いずれも小売価格や卸売価格を引き上げている。スーパーなどでは規制強化後、直ちにビールの店頭価格が1割ほど上昇した。居酒屋も仕入れ価格の上昇を通じ、徐々に影響が出始めている。

 もちろん、鳥貴族も例外ではない。ネット上では「割安感が強く、鳥貴族で絶対に注文すべき一品」などと紹介されているサントリービールの「金麦」大ジョッキ(700ミリリットル)。この看板メニューなども、仕入れ価格の上昇により、280円での販売が難しくなったのだ。

 企業努力によるコスト削減だけでは、ついに価格を守れなくなった。今回の値上げによって280円均一という、鳥貴族がこだわってきた価格設定は崩れる。

 コスト上昇に対して、値段を上げずに、例えば量を減らすなど品質を落として対応するやり方もある。しかし、鳥貴族は「高品質なサービスを提供する」(大倉社長)という理念を優先し、値上げに踏み切る。

 4年で店舗倍増計画

 既に他社では串カツ田中が7月、ビールを9円値上げし399円に、角ハイボールを20円値上げし390円とした。関東で中華料理店「日高屋」を展開するハイデイ日高も9月に生ビールを20円値上げし330円にしている。大手チェーンの相次ぐ値上げをきっかけに、価格改定の動きがさらに広がる可能性が高い。

 その一方、鳥貴族は9月20日発表した中期経営計画で、今後4年間で店舗数を567(今年7月末)から1000へほぼ倍増させる目標を掲げた。効率化を徹底し、値上げによる逆境をはね返す成長戦略を描く。(大柳聡庸)

【用語解説】鳥貴族

 焼き鳥を中心とした居酒屋チェーンで、2017年7月期(単独)の売上高は293億円、最終利益は9億6000万円。本社は大阪市浪速区。14年に東証ジャスダックに上場し、15年に東証2部、16年に東証1部に昇格し急成長を遂げている。8月末の店舗数は570。創業者の大倉忠司社長が人気グループ、関ジャニ∞の大倉忠義さんの父親としても知られている。