農・鉱分野にも自動運転の波 無人ダンプに自律航行船…課題は価格

 
コマツが鉱山向けに開発した無人ダンプ。自動車に先駆けて2008年から納めている

 世界の自動車メーカーが技術開発にしのぎを削る自動運転。2020年ごろには、完全自動運転の一歩手前に当たる「レベル4」が実現しそうだ。ただ、自動運転時代が到来しつつあるのは自動車だけではない。むしろそれ以上に期待が持てる分野が農業機械や鉱山機械だ。

 18年度中に投入

 農業機械大手の井関農機が6月中旬、茨城県つくばみらい市の事業所で開いた新商品発表会。17年度下半期の商戦向けに投入する9種類のトラクターや田植え機、耕運機に交じって、「T.Japan」と名付けられたある試作品のトラクターが披露された。

 農機では自動車と同様、自動運転技術がレベル分けされている。T.Japanは0~3まで4段階あるうち、そばで人が監視するとの条件付きで動かす「レベル2」に該当する。

 内蔵のジャイロセンサーや衛星利用測位システム(GPS)アンテナが、車体の位置や傾きを検知。最初に人が運転して基準となる地点を覚え込ませるだけで、あとは無人状態でも旋回や作業機の上げ下げといった作業をトラクター自身が行う。1ヘクタールの田畑で作業した場合、作業効率は従来の1.5倍以上に高められるという。発表会では、無人トラクターと有人トラクターを横に並べて同じように畑を耕すデモも行われた。井関農機は、このトラクターを18年度中に投入する方針だ。

 自動運転トラクターの開発を進めているのは同社だけではない。クボタはこの6月から同様のトラクターを試験的に販売。井関農機と同じく、18年度の本格販売を予定している。

 各社が対応を強化する背景には、日本の農業が抱える深刻な事情がある。少子高齢化が進むなか、農業就業人口は激減。後継者不足が解消しない以上、従来の生産力を維持するには、大規模化を進めつつ、最新技術を駆使して生産性を高めるしかない。井関農機の菊池昭夫取締役専務執行役員は「(無人トラクターのような)スマート農機の開発は、労働力不足や生産性向上といった課題解決につながる」と強調する。

 課題は価格だ。井関農機では同じ馬力の既存商品に比べて1.5倍を超えない程度に抑えたい意向だが、もともと日本の農機は価格が高いうえ、農家の資金力には限界がある。ただ、公道を走る自動車よりは障害が少ないとされ、早ければ20年にも完全自動運転に当たる「レベル3」の実現が期待されている。

 一方、自動車や農機以上に取り組みが進んでいるのが鉱山機械だ。コマツは、採掘した石炭や鉄鉱石を積み込む超大型の無人ダンプトラックを08年に実用化。これまでに100台前後を納め、チリの銅鉱山などで使われている。

 基本的な仕組みは自動車や農機と同じだ。GPSやセンサーにより、数センチ単位で車両の位置を把握。離れた場所にある管制室で集中管理する。昨年9月には運転室がなく、積み込む際にUターンせずに方向転換できるタイプも試作、19年にも商品化する計画だ。

 無人ダンプの投入では、ライバルの米キャタピラーも12年に追随したほか、日立建機は19年の実用化を目指している。

 無人ダンプの普及を後押しするのは、ここ数年続く資源安だ。豪英BHPビリトンなどの資源メジャーは経営環境が悪化するなか、人件費をぎりぎりまで削るなどして収益改善に追われている。鉱山労働者は世界的に不足しているため賃金は高く、都市部から離れた場所に位置していることも手伝い、豪州では1500万円程度を稼ぐケースもあるとされる。無人ダンプの価格が下がり、普及が進めば、かなりの費用削減が見込める。

 船舶でも無人化検討

 BHPビリトンは、鉄鉱石や石炭を無人で運ぶ「自律航行貨物船」の導入も検討している。

 船舶の場合、海上通信を確保する必要があるほか、シージャックの標的になりやすいといった声もあり、課題は少なくない。それでも三井造船や商船三井、東京海洋大学が5月、官民挙げて自律航行船の研究に乗り出すと発表するなど、実現の機運は少しずつ高まっている。

 世界的な船余りで海運会社の経営はどこも苦しい。他社との提携を含めた経営体質の強化は焦眉の急だ。日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内海運大手3社がコンテナ船事業を統合し、7日に新会社を立ち上げたのもその一例。「必要は発明の母」の格言が真実ならば、実現は意外と早いかもしれない。(井田通人)