電車の色にはこんな意味があった 「赤」は営団地下鉄と東京都で取り合いに?
《普段、何気なく乗っている電車の色。実はそこにはさまざまな理由や鉄道事業者の思いがある。路線案内という機能だったり、ブランドだったり。色を統一した会社も、自由な色使いができる会社も、それなりの理由があるのだ。[杉山淳一,ITmedia]》
首都圏の鉄道路線は、個別に色が与えられている。JR線を見れば、山手線はウグイス、京浜東北線はスカイブルー、中央線快速はオレンジなど。地下鉄の場合、東京メトロ銀座線がオレンジ、丸ノ内線は赤、有楽町線は黄色、都営地下鉄浅草線はピンクで、三田線は青、新宿線は緑。地下鉄同士は色が重複しないように、過去に話し合いがもたれた。目立つ色の赤について、当時の営団地下鉄と東京都で取り合いになったという話もある。
このような路線色はJR各社や全国の地下鉄でも採用されている。理由は「案内しやすく、乗り間違いを防げる」からだ。路線網が複雑で、隣のホームから違う行き先の電車が発着する場合もある。
大手私鉄では、車体の色分けが採用されていない。路線図では色分けされ、駅の案内図も路線色が使われているけれども、車両に関しては同じ色だ。東急は田園都市線と東横線で帯の色を変えている。池上線・多摩川線系統は緑色の柄を採用している。しかし、これは比較的最近のことで、かつては銀色に赤が定番だった。銀色を基調と考えれば、今も東急の電車のシンボルカラーは銀色だ。
京急電鉄はどの路線も赤だ。羽田空港行きが青、三浦半島行きが黄色、などと色分けすれば便利そうだけど、赤である。小田急と東武は青帯、西武鉄道はかつての黄色から青帯へと移行中だ。現在は相互直通運転が盛んになっているから、車両の所属先が分かりやすい。西武鉄道の路線で銀色とピンクの帯の電車を見ると「あれに乗れば東横線方面に行ける」と分かる。路線ごとに色を変えるというより、企業のシンボルカラーで統一する傾向と言える。
しかし、コーポレートカラーがそのまま電車の色になるという単純なものではない。西武鉄道はコーポレートカラーが青で、電車の色も青を基調に変えた。しかし、赤い電車の京急電鉄も、コーポレートカラーは青(水色)。駅名標などにコーポレートカラーを採用している。京急バスも青が入っている。電車の赤はブランドカラーといえる。
元の色を残す、という選択
コーポレートカラーを主張しない鉄道事業者もある。大井川鐵道だ。SLの保存運転で有名な鉄道会社だが、実は一般客が利用する電車も保存車両のような性質を持つ。近鉄、南海、十和田観光電鉄から譲受した電車が活躍中で、全て現役時代のまま、なるべく手を加えない状態だ。十和田観光電鉄から譲受した電車は、元東急電鉄の車両である。東急ファンにとっても懐かしい。
その大井川鐵道では先日、西武鉄道から譲受した電気機関車について、公式Twitterで塗装変更のアンケートを採り、ちょっとした騒ぎになった。比較的新しいスタッフが、電気機関車の運行に向けた整備のニュースを盛り上げようとしたそうだ。しかし、同社の方針、というか慣習を知る古参社員は、このツイートに驚いたという。同社広報が「色はそのままです」と公式回答して事態は収まった。
大井川鐵道の場合、「元の会社の色を残す」がブランドになっている。これを理解しないといけない。同社が期間限定で運行している「きかんしゃトーマス号」はどうなんだ、という声も聞こえるけれど、トーマスたちはあくまでもソドー島からやってきた機関車たちで、大井川鐵道の車両とは別物。むしろ、元の会社を残すという方針には合っている。
自由な色使いの路線もある
色分けでユニークな路線といえば、京王電鉄井の頭線、静岡鉄道、大阪市交通局の新交通システムのニュートラムだ。共通点は「なないろ」。列車の編成ごとに色が異なる。これはとても楽しい趣向だ。楽しいだけではなく、実用性もある。忘れ物をしたとき、何色の電車だったか覚えていれば探しやすい。途中の駅で友人と合流するときも目印になる。「青い電車の2両目」などと連絡できる。
路線色ではなく、コーポレートカラーやブランドカラーでもない。自由な色使いができる理由は何か。かつて、京王電鉄に聞いたことがある。七色の先駆者(車)、旧3000系の引退イベントのときだ。3000系の製造担当者は退社していたので、七色になった本当の理由は分からないという。先頭車前面に色つきのFRP(繊維強化プラスチック)製マスクをつけたことから「担当者が競馬好きだったのかも、枠の色にも見えるし」という冗談もあったけれど、「他社と直通運転をしない路線だから、自由な発想で取り組めたのではないか」という話に納得した。その意味では、富山ライトレールをはじめ各地の路面電車もカラフルだ。
自動車はユーザーの好みに応じて色を用意する。メーカーとしては、車体の造形に似合う色、特徴的なラインが引き立つような陰影などを考慮するだろう。ユーザーはいくつか用意された選択肢から好きな色を選ぶ。気に入った色がなければ、塗装工場に依頼して塗り替えてもいい。しかし、鉄道車両の色は好みというより、機能が重視される。「旅客案内」「誤乗防止」「ブランドの主張」などだ。
七色の塗り分けも「楽しさの演出」、すなわち「企業イメージアップ」という機能に含まれるといえる。「全ての色をそろえたい」という模型ファンのコレクション魂をくすぐるという理由は……どうだろう。模型メーカーにとってありがたい話ではある。
「安全のため」という理由もある。列車の接近を知らせるために、前面に白や黄色の帯を入れる。これは警戒色と呼ばれている。井の頭線の3000系が色つきのマスクをつけた理由は、銀色だけだと遠くから列車の姿を認識できないのではないか、という心配があったからかもしれない。
湘南新宿ラインと上野東京ラインが気になる
ところで、首都圏の鉄道路線の色で、気になることがある。湘南新宿ラインと上野東京ラインだ。東海道本線方面と、東北本線(宇都宮線)・高崎線に直通する電車は、どちらも同じ色。銀色の車体にオレンジと緑色のラインが入っている。ほぼ同じ経路を走っているとはいえ、東京駅に行こうと思ったら新宿経由だったり、その逆だったり。車体の色がアテにならない状況がある。
駅の案内放送、発車案内表示、車体の前面や側面の表示器にはきちんと表示されているから、不便というわけではない。強いて言えば、動いている状態のLED表示は、従来の方向幕に比べると見づらいと思う。乗車時に確認する分には問題ないとはいえ、せっかく同一路線同一色というシステムを作り上げたところで、この紛らわしさはもったいない。
事情は分かる。車体がステンレスになる以前から、オレンジと緑色は、東海道本線のイメージカラーだった。東北本線、高崎線もそうだ。しかし、3路線とも同じ色にもかかわらず、過去には問題にならなかった。それぞれ、上野駅と東京駅で運行経路が分断されていたからだ。東北本線と高崎線は間違えやすかったかもしれないけれど、上野~大宮間は同じ経路だったし、上野駅、大宮駅では異なるホームを使うなどの工夫もあった。
南北の2つの路線が接続しただけなら、それほど不便ではない。しかし、上野東京ラインの誕生で、途中で経路が分かれて合流する形になっている。本音を言えば、湘南新宿ラインと上野東京ラインで、せめて帯の色を変えるくらいの工夫はほしい。しかしこれも難しい。湘南新宿ラインと上野東京ラインは、車両を使い回している。効率的に車両を使うため、どちらか1つの路線に限定できない。直通運転の便利さと色分けできない事情はトレードオフの関係にあり、現在の方が良い。
こういうことを言い始めるとキリがない。名古屋鉄道も行き先ごとに色を変えてくれたらどんなに便利だろうと思う。しかし、やはり車両を運用する上で難しい。車体の色に機能性を持たせるというアイデアは素晴らしいものだけど、まだまだ改善すべきことは多い。いっそ、車体の帯部分を全てLED化して、走行路線ごとに異なる色に……と思うけれど、かなりお金がかかりそうだ。
私たちは無意識に、車体色の便利さに慣れてしまった。電車に乗るときは、行き先をちゃんと確認しよう。
■杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
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