AMED発足2年、医療の情報共有進む 未知の病気10以上発見 広がる治療の道

高論卓説

 医療分野における研究開発の司令塔として2015年に発足した国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が、成果を発表する初のシンポジウムを東京国際フォーラム(千代田区)で催した。5月29、30日の両日とも1000人の会場は満杯。京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長らの講演や展示のほか、私も登壇したパネル討論があった。

 AMEDは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省に計上された医療の研究予算を集約し、基礎から実用まで一貫した研究費助成と研究開発マネジメントを担うためにできた。医薬品や医療機器の開発、再生医療など9つの統合プロジェクトを筆頭に、16年度は2300件の研究開発課題を支援している。

 シンポジウムでは、末松誠理事長が、研究費の機能的な運用や予算配分の問題点是正、国際化、データ・シェアリングなどの取り組みを報告した。

 また、「AMEDに期待すること」と題して、「難病のこども支援全国ネットワーク」の小林信秋会長、日本製薬工業協会の畑中好彦会長、テルモの昌子久仁子取締役顧問、それに私の4人が意見を交わした。

 小林さんは、小児の難病は患者が少ないため診断が遅れたり、治療法の周知が不十分だったりすること、闘病生活に多様な困難が伴い、誤解や偏見に傷つくことなどを写真とともに紹介した。「患者の多様な願いを研究開発に取り込んで」「生活者の視点を忘れないで」「新しい薬や医療機器を早く届けて」「既存薬の効能拡大を進めて」「研究者と患者の架け橋役を」などと、難病の子を持つ親の願いを語った。

 畑中さんは、学界の研究成果が製薬企業へ橋渡しされる仕組み、学界の臨床情報に企業がアクセスできる仕組みが、AMEDによって構築されたと報告。さらなる情報集約と利活用、理研など3独法の設備・技術の活用などを求めた。

 私は、「伝える、見せる、つなぐ」という役割への期待を述べた。第1に、資金の優先順位付けを通じて、AMEDが大切にする「生命・生活・人生という3つのLife」を国民、医療従事者、研究者、政策決定者に伝え、道を示す灯台となってほしいこと。

 第2に、どんな分野の、どの疾患の、誰のどんな研究に、どの程度の資金が投入され、見通しはどうか。情報が国民に分かりやすく開示され、利用できるようにしてほしいこと。

 第3に、ITを活用し、垣根を越えた連携で、埋もれた情報を「先制医療」や難病治療につなげてほしいこと。

 成果を出しつつあるのが、希少・未診断疾患の包括的診断体制(IRUD)だ。全国220の病院で情報を共有し、診断の難しい患者の遺伝子解析をする。ある病気では、カルテに書かれた複数の所見が日米の患者で一致し、遺伝子解析の結果、代謝経路の変異に共通点があると分かった。情報共有により初めて見つかった病気は、10以上に上るという。こうした連携を広げることで、診断、治療への道が開けるはずだ。

 省庁連携はもちろん、情報をつなぎ、人をつなぐ。AMEDには車輪の軸の役割を大いに期待したい。

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 科学ジャーナリスト。筑波大・青山学院大非常勤講師。筑波大卒。米国カンザス大留学。読売新聞記者を経て独立。著書に「人体再生に挑む」(講談社)、「水も過ぎれば毒になる 新・養生訓」(文藝春秋)など。