スマホに食われたカメラ…苦境続く業界「市場縮小は止まるのか」 ニコン希望退職募るも…
写真撮影は、カメラを搭載したスマホで十分というユーザー意識の変化を受け、いま、深刻なカメラ離れが起きつつある。苦境のカメラ業界からは「市場の縮小がいつ止まるのか見えない」と悲鳴が噴き出す。リストラを迫られたニコン、高級機種で巻き返しを図るソニー、プリントにも活路を見いだす富士フイルム…。各社は反転攻勢の糸口をつかめるか-。
凋落したニコン
5月11日、ニコンが都内で開催した平成29年3月期決算発表会。事前に苦戦が予想されていた通り、公表されたその数字は約71億円の最終赤字で、7年ぶりの赤字決算となった。
不振のデジカメは、レンズ交換式の販売台数が404万台(28年3月期)から310万台(29年3月期)に減少。さらに250万台(30年3月期)に減ると予想される。コンパクトデジカメも「623万台(28年3月期)→319万台(29年3月期)→230万台(30年3月期)」で、まさに「転落」という表現がふさわしい軌跡をたどる。
岡昌志副社長は「付加価値が大きい製品を追求するため台数は減少する」と説明したが、では一体いつ底は見えるのか。
岡氏は「市場の縮小がいつ下げ止まるか、どこまで下がるか判断は難しい。過去と同じペースで縮小する前提で計画を練っている」と苦渋の表情で語った。
ニコンは昨秋、希望退職を募集。国内で1000人以上が応じたが、もう一段のリストラがないとはかぎらない。今年7月、創立100周年を迎えるニコンの現実だ。
逆風…ざっと5分の1に
業界に吹く逆風の勢いが衰えない。カメラ映像機器工業会によると、2016(平成28)年の世界のデジカメ出荷台数は約2400万台。ピークだった2010(同22)年は約1億2100万台。ざっと5分の1に縮んだ。
各社が声をそろえるように「スマホに食われた」ことに原因がある。米調査会社IDCによると、スマホの世界出荷台数は2016(同28)年だけでも14億7350万台。その一台一台に、コンパクトデジカメと遜色(そんしょく)ない性能のカメラが搭載される。その急速な普及の波に、カメラが「飲み込まれた」と話す関係者もいる。
デジタル化が進んだ平成18年に、カメラ事業から撤退したコニカミノルタ。カメラ・フォト事業でピーク時には2685億円の売上高があったが、すでに複合機やヘルスケア事業に軸足を移して10年超がたつ。4月には医療用画像データなどの保管・管理システムを手がける「パナソニック・メディカルソリューションズ」を買収。その脱皮ぶりは祖業の面影がもう分からないほどだ。
攻める各社、高級化路線も
撤退の一方で、攻めの姿勢を維持するのはカシオ。カメラ部分と液晶部分を分離できるセパレート型など、ひと味違った機能で差別化を進める。
5月10日の29年3月期決算説明会では、デジカメ事業が前期比38%減の減収、赤字額は5億円と公表された。苦戦の顕在化を受けて同社は今年度からデジカメ、プロジェクター、楽器の技術を融合させ第三の柱となる事業創出に着手する。「市場のシュリンクをだまってみてはいられない」(同社)。
手をこまねいていないのは富士フイルムやソニーも同じだ。両社は高級路線に舵を切った。
富士は国産初となる中判ミラーレスカメラ「GFX 50S」を約80万円で発売。市場推定価格約50万円というソニーのミラーレス一眼「α9」は最高20コマ毎秒の高速連写機能を搭載している。いずれもスマホなど比較にならないほどの高性能を誇りマニア垂涎(すいぜん)の機種として話題をさらった。
写真文化は進化している
このままカメラが消滅すると考えるのは早計かもしれない。
2010年にサービスが始まったスマホ向け写真共有アプリ「インスタグラム」。スマホで画像を見せ合うシンプルな機能ながらブームに火が付き、月間アクティブユーザー数は世界で7億人、国内で1600万人を数える。
撮った写真をその場でプリントして楽しむ異色のインスタントカメラ「チェキ」も若い女性らの間で人気で、2016(平成28)年度の販売台数は660万台以上と気を吐く。いずれも記録としての写真ではなく、コミュニケーションツールとしての写真という存在感を打ち出している。
その変化をとらえて、あるメーカー関係者は「デジタル時代の写真文化は退化どころか進化している」と話す。各社はピンチと新しいトレンドを追い風にできるかどうか、正念場を迎えたといえる。(産経新聞社経済本部 柳原一哉)
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