カネマス ジャージーにこだわり 品質重視のものづくり
埼玉発 輝く学校用の体操服やジャージーを製造・販売する埼玉県羽生市のカネマスは、高品質なものづくりを行う企業として高い評価を得ている。アイドルグループ「ももいろクローバーZ」が路上ライブで、同社の2本線ジャージーを着てから、口コミで評判が広がり、販売を大きく伸ばした。一方で今年に入り、水をはじくジャージーの生地開発で、県の「渋沢栄一ビジネス大賞」のベンチャースピリット部門で大賞を受賞するなど、さらなる飛躍が期待されている。
カネマスは1953年に現社長の金子隆氏(69)の父が総合衣料品問屋として創業した。当初は婦人用スラックスを製造していたが、なかなかもうけを出せず、苦労していたという。
そんな父の姿を見てきた金子氏は高校卒業から2年後の20歳の頃、カネマスに入社した。最初は営業を担当していたが、経営が安定しない状況から脱却しなければいけないと一念発起し、68年に主要事業を学校用のジャージーに切り替えることを決断した。
金子氏は車で全国の学校を回り、次々と販売先を開拓していった。1カ月間で5000キロを運転することもあったという。これを10年続けて、カネマスは体操服やジャージーの専業メーカーになった。
その後、海外展開を含め、事業拡大も検討したが、金子氏は専業メーカーとして生き残るために品質を高めることを優先した。こうして、デザインから生地選び、アフターサービスまで一貫して行えるのがカネマスの大きな強みとなった。
◆ももクロで全国区
そして、この品質のこだわりは、ある出来事をきっかけに全国に広まるようになった。ももクロがカネマスの2本線ジャージーを着用し、形態安定性や肌触りが良いという評判がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で拡散した。
ファンからの注文が殺到し、今では多くのテレビ番組でカネマスのジャージーが採用されている。衣装係の急な注文にも、すぐ対応できる態勢を整えており、業界内での信頼も厚い。これも品質を重視した姿勢が生み出した結果といえる。
◆被災者に寄り添う
その一方で、カネマスは技術開発にも力を入れている。営業を担当していた金子氏だが、30歳を過ぎてから開発にも興味を持ち始めた。何度か失敗したこともあったが、2001年には植物をパウダー状にして染色する技術を開発し、04年に世界9カ国で特許を取得している。
また、東日本大震災で家をなくして避難所で生活する被災者が水がなく、洗濯ができない姿を見て、自分に何かできることはないかと考え、12年から水をはじく生地を使ったジャージーの開発に乗り出した。知り合いの機屋や染色工場の協力を仰ぎ、4年かけて開発した。
水や液体の汚れを寄せつけないジャージーは、画期的なアイデアとして認められ、県の「渋沢栄一ビジネス大賞」ベンチャースピリット部門で大賞を受賞した。金子氏は「まさか大賞をいただけるとは思っていなかった」と笑顔で語る。
取引先から生地について教えてもらい、独学で学んだ開発は「趣味の延長線上だ」と話す金子氏。この我流の開発方法が他の人ができないものを生み出す源泉となっている。「自分の頭の中で考えて難しい課題を解決していく作業が好きで、死ぬまで続けたい」。次の画期的な開発品が待たれる。(黄金崎元)
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【会社概要】カネマス
▽本社=埼玉県羽生市西5-39-3((電)048・561・0635)
▽設立=1953年9月
▽資本金=1500万円
▽従業員=80人
▽売上高=約6億円(2016年度)
▽事業内容=スクールジャージーの製造・販売
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□金子隆社長
■企画から製造まで自分たちで
--少子化が進んでいる
「人口減少で学校も少なくなるので、事業は拡大しない。大量生産は行わず、顧客が求める分だけ供給していく。国内生産にこだわり、職人の気持ちで仕事をしたいと思っている。海外は韓国や中国、タイに進出しているが、大量生産しなければ、利益が上がらないので、撤退も検討している」
--カネマスの強みは
「職人かたぎの会社で求められているものをきっちりつくるという点だ。創業から60年以上たったが、この間に体操着やジャージーのノウハウを蓄積してきた。設備もお金をかけ、企画から製造まで、すべて自分たちで行っているのも強みだ」
--ももクロの2本線ジャージーで認知度が高まった
「当社が製造した本物のジャージーでないと満足しないファンが多く、直接注文が来るようになった。ライブがある度に、かなりの数が売れた。通常のジャージーはスタジオ撮影でライトを照らされると、中が透けて見えてしまうが、当社のは光を通さないので採用してくれた。良い宣伝になり、ここ数年で芸能関係の注文が増えている」
--開発にも熱心に取り組んでいる
「34歳のときに営業を離れ、ものづくりを始めた。生地に使う素材や編み方などを機屋や染色工場の方に教えてもらい、商品開発に取り組んできた。失敗も多く経験し、1000万円の損失を出したこともあった」
--これからカネマスをどういう会社にしたいか
「匠で商売をする会社がいくつかあるが、当社は他社が3日かかる仕事を1日でできる会社にしたい。この業界では海外生産や外注の活用でコストを落とす会社が多いが、当社はすべて自分たちで行い、スピード対応で顧客から頼られる会社を目指している」
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【プロフィル】金子隆
かねこ・たかし 1966年埼玉県立羽生実業高卒。68年カネマス入社。スクールジャージーの営業、開発などを担当し、常務、専務を経て、2002年から現職。69歳。埼玉県出身。
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≪イチ押し!≫
■常識覆す発想から水はじく生地
水を通さない生地を開発するため、金子氏は特殊な生地の編み方と撥水(はっすい)加工の技術を取り入れた。
特に生地の編み方に工夫を凝らし、いくつもの山の膨らみをつくって空気の層を設けた。このため、雨が降っても水をはね返し、山の溝から外に流れて滞留しないようになった。水が空気の層に入っても下に染み込まず、逆に雨を押し返す構造だ。
さすがに強い雨の場合は水が染み込むが、「ティッシュやタオルで拭けば、すぐに乾いてしまう」(金子氏)という。
通常の生地は毛玉が増えるため、山の膨らみはつくらないのが常識だが、金子氏は素材をバランス良く組み合わせることで、この課題を解決した。常識を覆す発想が画期的な生地を生み出した。今後はジャージーだけでなく、介護や防災分野にも生地の用途を広げる。
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