レクサス、個性磨き独勢崩し 前例破りのデザイン性で「ドイツ御三家」に挑戦状

 
愛知県のトヨタ元町工場で生産されるレクサスの最上級車「LC」

 トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」が、ドイツの“御三家”にいよいよ宣戦布告-。

 品質という従来の強みに加え、ひと目でそれと分かる存在感のあるデザイン性を加味したクーペ「LC」で、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディに真っ向挑戦状を投げつけた。“キャラ立ち”の先鞭(せんべん)をつけたLCを皮切りに、他のレクサス車種の個性化も続々と図り、真の「日の丸プレミアム」を目指すが、ブランド改革は道半ばで、ドイツ御三家の背中はなお遠いままだ。

 試作車が評判呼ぶ

 「レクサスの新しい時代の始まりを象徴するモデル。人々を移動させるだけでなく五感も動かす車だ」

 レクサスブランドを担当するトヨタの福市得雄専務役員は3月16日、東京都内で開かれたLCの発表会でレクサスブランドが新たな段階に入ったと強調した。

 そう言い切るのには、レクサスブランドを次のステージに導くべく「変革への挑戦」に取り組んできたとの自負がある。実際、LCでは従来のレクサスモデルとは異なる開発過程をたどり、従来のどのレクサスモデルにも当てはまらないデザインを採用したという。

 LCの原型は、2012年の米デトロイトモーターショーで発表した試作車「LF-LC」。このクルマはあくまで開発予定のないコンセプトカーで、エンジンの配置などの技術的な側面は一切考慮されず、実際に市販するのは不可能な意匠とされた。

 しかし、デトロイトショーでお披露目されるや、ジャーナリストをはじめ来場客から喝采を浴びた。とりわけ米国レクサス販売店のトップは大絶賛。「ぜひ、開発してほしい」という声がこれほどかというほど寄せられたという。トヨタの開発プロセスでは、通常は予定にない車両の開発を進めることはまずないが「皆さんの声がわれわれを変えた」(豊田章男社長)。ショーの後に開かれた、LCを開発するかどうかを判断した会議で、豊田氏と福市氏は技術陣に「開発は難しいが、できなさそうだからやる」とげきを飛ばし、改革の象徴として市販することを決めた。

 「顧客の感性刺激」

 トヨタにとって、前例破りの開発経緯をたどったLC。その開発に取り組んだ背景には、レクサスが抱えた構造的な課題がある。レクサスの世界販売の5割超を占める米国市場の顧客を中心に「品質は高いが、どうしても欲しいという感情を揺さぶるデザインなどに乏しい」とする厳しい評価が多かった。

 実際、米有力専門誌「コンシューマー・リポート」の調査がその事実を如実に物語っている。同誌が昨年10月にまとめた性能や品質、使い勝手など信頼に関する自動車ブランドの調査で、レクサスは4年連続で首位となった。一方で、同じ専門誌が3月にまとめた所有者の満足度などを基に決める17年版のブランドランキングでレクサスは4位と、ドイツの高級車メーカーの後塵(こうじん)を拝している。

 1989年生まれのレクサスは、20世紀初頭に誕生したメルセデス・ベンツ、BMW、アウディという「ジャーマン3」と呼ばれるドイツの御三家には歴史ではどうあがいても太刀打ちできない。長い歴史と伝統が息づくブランドに対抗しうる唯一ともいえる武器は商品力を高める以外に方法はない。

 福市氏も「ブランドイメージの向上のため車両自体が変わらなければならなかった」と話し、社内で実現不可能とされたLCの開発に挑戦した経緯をこう強調した。確かにLCは一目見ただけでレクサスのLCと分かる低重心かつ斬新なデザインで、社用車中心のセダン「LS」とは全く異なる新たな個性を打ち出した。福市氏は「感性を刺激し、驚きと感動を提供するブランドでありたいというレクサスの目指すテーマを表現した」と話し、LCで打ち出した新たな基軸への挑戦を他のモデルでも続けると“公約”した。

 激化する販売競争

 トヨタがレクサスブランドの変革にかける思いはたけだけしいが、現実的にはドイツ御三家との販売差は歴然だ。16年のレクサスの世界販売台数は約67万8000台。これに対し、メルセデス・ベンツは約208万4000台、BMW約200万3000台、アウディ約186万8000台と3倍前後の差をつけられている。しかもドイツの御三家はこの先も世界での拡販に向けた施策を矢継ぎ早に打ち出している。

 BMWは、18年末までにグループのMINI(ミニ)などを含めて計40を超える新型と改良車を計画。ベンツやアウディも日本やアジアをはじめ幅広い地域で販売の上積みを目指しており、高級車をめぐる世界の販売競争は激化の一途だ。

 高額でも年間200万台近くを売り切るブランド力を持つドイツの御三家に、互角以上に渡り合うには「レクサスにしかない唯一無二のストーリー(物語)をつくらないといけない」(福市氏)。トヨタがレクサスで目指すブランドテーマ「お客の期待を超える驚きと感動の提供」を、売り出すモデルで手を緩めずに実践できるか。それができなければ、御三家に次ぐ“次点”のブランドという位置づけを覆すのは難しいだろう。(今井裕治)