iモードで課金モデル確立 ドコモ、次は「5G」開発で再び勝者に 新たな収益源育てる

 
VRと5Gが可能にする遠隔作業支援システムのモデル。NTTドコモと新日鉄住金ソリューションズが開発した

【技術革新とiモード】(5)

 ■再び勝者へ使命感で競う

 1996年、米アップルコンピュータ(現アップル)と組んで、インターネットに接続できる次世代ゲーム機「ピピン@(アットマーク)」を発売した日本企業があった。玩具大手のバンダイ(現バンダイナムコホールディングス=HD)だ。

 しかし、7万円超の価格やソフトの不調で出荷台数は約4万台にとどまり、「世界で最も売れなかったゲーム機」と陰口をたたかれた。2年で撤退し、270億円の特別損失を計上した。

 社内が意気消沈していた頃、NTTドコモを訪れた担当者は、同社が携帯でネットに接続するサービスを開発中であることを耳にした。ピピン向けに準備していたサーバーが大量に余っていたバンダイは、ドコモの新サービスへの参加に“再起”を賭けようとした。

 同社は「機動戦士ガンダム」などの知的財産(IP)を使った玩具などを得意としてきた。待ち受け画像という概念がなかった当時、IPのキャラクター画像を待ち受け用に配信するアイデアにたどり着いた。

 99年6月、月額100円のサービス『キャラっぱ!』を開始すると「自分だけの携帯」というニーズをつかみ、翌年3月には会員が100万人を突破した。当時、新規事業の開発部門にいて、キャラっぱ!に途中から関わった現バンダイナムコエンターテインメント取締役の宇田川南欧(なお)(43)は、「iモードの登場により、IPをデジタル化するという新しいビジネスが生まれた」と話す。バンダイナムコHDのデジタルコンテンツ事業の売上高は3209億円で、玩具の1.5倍を超えている。「会社としても大きな転換点だった」。

 新サービスが転換点

 iモードの開発で中心的な役割を果たした現慶大特別招聘(しょうへい)教授の夏野剛(51)はサービス開始前、iモードにコンテンツを供給する企業を一社一社説得し、67社をそろえた。「当初、月額課金への抵抗感は強く、説得は大変だった」と振り返る。「しかし、後で全員に感謝された。iモードは初めて、コンテンツへの課金を成立させたビジネスモデルだった」

 夏野はiモード携帯にプログラミング言語「Java」を導入した。これで開発が容易になり、飛躍的な発展を遂げるのが、携帯電話向けのゲームだ。

 「これからはモバイルでいく」。グリー社長の田中良和(40)は2006年春、東京・六本木の本社に当時まだ十数人だった社員を集めて宣言した。当時の主力事業は交流サイト(SNS)運営だったが、提供していたのは主にパソコン向け。iモードで始まった携帯によるネット向けに舵を切ったのだ。

 グリーはKDDIの携帯の公式メニューとしてSNSを提供。また、利用者が交流する際の話題づくりに有用だと判断し、07年に携帯で手軽に楽しめる釣りゲーム「釣り★スタ」をリリースした。ゲーム自体は無料で楽しめるが、利用者は“釣果”を挙げるためにお金を払ってアイテム(道具)を買うことができる。普段ゲームをしない人を含む多くの利用者による課金収入が膨らんだ。現取締役の荒木英士(34)は「『(ビジネスモデルを)掘り当てた』という手応えがあった」と話す。

 デジタル社会の将来について夏野は学生に、「脳が直接、ネットにつながる時代がくる。その時は暗記や機械的な計算能力は意味がなくなり、『想像』と『創造』する力が重要になる」と訴えている。

 5G整備もチャンス

 グリー取締役の荒木も、「神経にコンピューターが直結するまでの中間ステップとして、VR(仮想現実、バーチャル・リアリティ)の市場が広がる」とみる。スマホ向けゲームで携帯向けほどのヒットを出せていない同社は、専門部署でVR向けコンテンツ制作を進め、新市場のリーダーを目指している。

 通信環境も大きく変わりそうだ。ドコモは20年を目途に、第5世代移動通信方式(5G)の環境を整備する。2時間の動画を3秒で送信できるという超高速のほか、多数同時接続が特徴。iモード開発に携わり、現在もドコモでコンテンツを扱うプラットフォームビジネス推進部で次長を務める原田由佳(52)は、「5Gにより、映像を含めて豊かなコンテンツが実現する」と期待する。ドコモは通信インフラだけでなく、異業種と組んで5Gを使ったサービスを提供し、新たな収益源に育てる考えだ。

 海外勢に押され、国内でさえ存在感が小さくなった日本の携帯メーカーだが、「25年9月にスマホ販売台数で世界一を目指す」と公言する企業がある。「フリーテル」ブランドで端末と通信、アプリを一体的に提供するプラスワン・マーケティングだ。東南アジアや中南米にも進出した社長の増田薫(45)は、「日本のものづくりを取り戻すという使命感がある」と強調する。

 デジタル社会を発展させる技術革新の背景にはいつも、企業間の熾烈(しれつ)な競争があった。1984年、アップルのCEO、故スティーブ・ジョブズは、新型パソコン「マッキントッシュ」を発表した株主総会でボブ・ディランの歌詞を読み上げた。「いまの敗者が後に勝者となる。時代は変わるのだから」=敬称略、年齢は現在(おわり)

 この連載は高橋寛次、大坪玲央が担当しました。

■(1)「売れないわけない」iモード誕生秘話 携帯とネット融合、時代捉えた「i」の文字 から読む

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【用語解説】5G

 携帯電話などの端末で通信するための方式のことで、「第5世代移動通信方式」の略。現行のLTEと比べて速度は100倍、遅延は1ミリ秒程度とLTEの10分の1という超低遅延で、自動運転車への情報伝達にも優れるとされる。また、1キロ平方メートル当たり100万台の機器と接続できる。2020年度の実現を目指し、産官学による研究開発が進められているほか、総務省は主要国との連携・協調を通じた標準化活動や、周波数の具体化などに取り組んでいる。