孫正義氏とプーチン大統領の立ち話が物議 メンツつぶされた経団連、「マナー違反」と憤り
昨年12月、ロシアのプーチン大統領来日の際の、ある経営者の動きが経済界で物議を醸している。ソフトバンクグループの孫正義社長だ。都内で開かれた会合で、プーチン大統領と親しげに肩を抱き合いながら立ち話していたことだ。就任前のトランプ米大統領とも会談したばかりのタイミングで、わずか10日の間に、米露の両トップと対話した。この成果を評価する声があるのと同時に、会合の主催サイドからは、抜け駆け的な行動に疑問の声も出ている。
問題となったのは昨年12月16日、東京都千代田区の経団連会館で開かれた財界人らによる会合「日露ビジネス対話」でのことだ。プーチン大統領が出席することから、会場には金属探知機を通ってからでないと入室できないような厳しいセキュリティーがかけられ、物々しい様子だった。
プーチン大統領、安倍晋三首相の会場到着で、会合が始まる予定で、当初告知されていた予定時間の直前に、会場に孫社長が着いた。
ソフトバンクグループは経団連に加盟している企業であるため、孫社長が登場してもおかしくないが、ここ数年は、経団連の活動に対して、参加することはなく、経団連会館での孫社長登場に違和感を覚える報道陣も多かった。
その中で、会合が始まる直前に、孫社長が会場を後にした。この様子を見ていた報道陣も「会合の開始がかなり遅れているので、他のスケジュールもあり、帰ったのでは」とみていたが、とんでもないことになっていた。
別の部屋に控えていたプーチン大統領と安倍首相が合流し、入場する直前に、会場前のフロアで、孫社長がプーチン大統領と親しげに肩を抱き合いながら立ち話をしたのだ。
会合の会場内だけでなく、会場前のフロアにもテレビカメラが陣取って、撮影していたため、その様子が映っていた。
さらに、記者の問いかけにも、孫社長は応じた。
「トランプ米次期大統領と電話で話す予定があって、プーチン大統領からも『ぜひよろしく伝えてくれ』と頼まれた。今度、われわれは米国に投資するが、『ぜひロシアにも』と頼まれた」。孫社長はプーチン大統領との立ち話の内容をこう明かした。さりげなく、アメリカ、ロシアの2トップの橋渡し役になっていることをアピールした格好だ。
さらに「(プーチン)大統領から『ロシアに来てほしい』といわれたので、5月前後に行こうかと思う。『人工知能(AI)とか最先端の技術を開発していこう』という話があった」と続けた。
関係者や報道陣の多くがすでに会場に入っていたため、孫社長とプーチン大統領の立ち話に気付かない状況だったが、会合終了後のニュースで取り上げられ、波紋が広がった。
ある財界人は、この孫社長の行動を高く評価する。「ビジネスになるとなれば、さまざまなコネクションを駆使して、面談を取り付ける。その徹底した動き方は尊敬に値する」と称賛。また、IT業界の経営トップは「トランプ氏、プーチン氏の双方に短期間で面談している人物は世界でもそういない」と驚く。
しかし、今回の孫社長の行動でメンツをつぶされたのは経団連だ。事務局の多くは、ごった返す会場でのさまざまな対応などで、孫社長が会場に来ていることも知らない上、プーチン大統領と立ち話をした事実も把握していなかった。
テレビのニュースでも日露ビジネス対話で、経団連の榊原定征会長、プーチン大統領、安倍首相らがあいさつしている会場内の映像などが使われることは少なく、孫社長とプーチン大統領の会話が、あたかもプーチン大統領を迎えての日本の経済界の動きとして、放映された形だった。
ある経団連事務局の幹部は、「さすがに会場が経団連会館、経団連が中心になって開催している会合で、プーチン大統領と話すのなら、ひと言、経団連に断りを入れるべきだった。マナー違反だ」と憤りを隠せない。
経団連と孫社長には遺恨もある。孫社長が前回、経団連の会合に出席したのは平成23年11月。定例理事会の席で、直前に経団連がまとめたエネルギー政策の提言を批判したときだ。提言では原子力発電所の早期再稼働を要請したが、孫社長は「安全・安心の検証がなされていないうちに再稼働を求めるのは遺憾」と訴えた。意見は通らず、その後は、会合に出席せず、経団連とは距離を置く格好になっていた。
ただ、孫社長とプーチン大統領の立ち話をセッティングしたのは経済産業省との情報もあり、経団連としては怒りのやり場を持っていけないままとなっている。(経済本部 平尾孝)
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