倒産から起業、出産後に思わぬ事態に直面し… 人気あられ屋社長の今
今から5~6年ほど前、「つ・い・つ・い」という名前のあられが話題になった。絶妙な塩加減とおしゃれなパッケージで老若男女の人気を集めた。商品名と同じ社名にした「つ・い・つ・い」の遠藤貴子社長はいま、企業を相手に新規事業の支援やコンサルティングを手掛けている。遠藤社長と会社を変えたものとは。
出産後に病気で閉店
大学在学中からネット通販サイトを立ち上げ、服飾雑貨を販売していた遠藤社長。派遣社員だった25歳のとき、「一生働けるやりがいのある仕事を」と高級賃貸物件を扱う不動産会社に転職し、営業職としてトップ級の成績を収める。知人が起業した会社を手伝うために不動産会社を退職したが、その知人の会社が3カ月で倒産の憂き目に。そんなとき大好きだったあられ屋が倒産の危機に瀕(ひん)していることを知った。
「ほどよい塩加減で誰にでも楽しめそうな味だ」と直感し、あられ屋の許可を得て、パッケージデザインなどを見直して自身のサイトで販売したところ、初日に10万円以上も売り上げた。六本木ヒルズ(東京都港区)など都内各地に出店、不動産営業の経験もあり、自ら売り場に立つことも多かった。
2013年に、マレーシアの百貨店で期間限定の出店をしようとした矢先、その前年に結婚したフランス人男性との間に長男を授かっていることがわかった。帰国後の14年6月に無事出産したが、思いも寄らない事態に直面する。
出産後、度々40度以上の高熱と全身に痛みが走る日々が続き、乳房に膿がたまる乳腺炎とわかった。初期段階で治療すれば完治できるが、まれに重症化すると敗血症や死に至ることもある。出産直後から仕事に復帰したものの、乳児を預かってくれる保育施設などはなく、時には子供を連れて商談に臨むことすらあった。
「仕事上のストレスや疲れもあったが、何よりもつらかったのは最愛の息子を抱けなくなったこと」と振り返る。結局、このままでは会社を続けられないと判断、14年に店をすべて閉めた。
付加価値を生む
「これからどうすればいいのだろうか」-。病床で、ノートに自分のこと、家族のこと、仕事のことなどを書き連ねた。
書いていくうちに、商品やサービスの良さをうまく見つけて、プロデュースすることが得意なことに気付く。「いわば価値がゼロと思われるもので付加価値を生み出すビジネスに向いているのでは」
15年3月、起業家としてあるビジネスプランコンテストに出場するが、敗退。ただ、審査員の目にとまり、後日面談して改めて自己PRをするや否や、その審査員が携帯電話である人に連絡してくれた。「この会社を手伝わないか」と言われ、ある大手企業の新規事業開発に関わることになった。さらに起業支援を手掛けるベンチャー企業や、兵庫県三田市の養豚農家からも声がかかった。
遠藤社長は「これまでの経験を生かし起業支援や事業支援を通じて、一つでも多くのプロデュースの実績を積み上げたい。いずれは『つ・い・つ・い』とは別に、起業支援や事業支援をする会社を立ち上げたい」と目を輝かせる。
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【プロフィル】遠藤貴子
えんどう・たかこ 恵泉女学園大人文卒。都市銀行子会社、不動産会社勤務を経て、2008年つ・い・つ・いを設立し、社長に就く。11年六本木ヒルズの出店を手始めに、東京都内に店舗を展開したが、14年にすべて閉店。以後、企業向けに新規事業支援などを手掛ける。37歳。東京都出身。
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【会社概要】つ・い・つ・い
▽本社=東京都港区南青山2-2-15-1317
▽設立=2008年10月
▽資本金=500万円
▽事業内容=企業向け新規事業支援など
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