ビール党は歓迎も… なぜ酒税一本化に「10年」かかる? 不可解さ拭えず

提供:PRESIDENT Online

酒税一本化で第3のビールは泡と消える

 2017年度税制改正でビール系飲料の税額が一本化されることが決まった。15、16年度の税制改正論議で俎上に上がりながら見送られてきた経緯もあり、3年越しの改正となる。しかし、一本化が最終的に実現するのはいまから10年近くも先の26年10月とあっては、消費者にはいささか「気が抜けたビール」といった印象は拭えない。

 現在、ビール系飲料の税額は350ミリリットル入り缶の場合、ビールが77円、発泡酒46.99 円、第3のビール28円と、種類により3区分に分けられている。自民・公明両党は12月8日にとりまとめた17年度税制改正大綱で、この税額を一本化することを決定した。見直しの基本はビールの税額を下げ、発泡酒、第3のビールを引き上げる。

 実際の税額見直しはほぼ4年後の20年10月から3段階で実施し、最終段階で税額を54.25円に統一する。単純にいえば、店頭での小売価格はビールが下がり、家飲みが中心の発泡酒、第3のビールが上がる。本物好きなビール党は歓迎だ。

 しかし、これも素直には受け取れない。なにしろ、実際の見直しは経済状況を踏まえ判断する規定を設けており、スケジュール通りに確実に実行されるかは不透明な要素が残る。はっきりしているのは、ビール系飲料の定義をビールと発泡酒の2種類に絞り込み、第3のビールは泡と消える運命にあることだ。

 有り体にいえば、17年度改正でビール系飲料の酒税一本化に向けた道筋が付いたといったところだろう。それでも、国際的にみて日本のビールの税額は高く、ビール大手は「ビール減税は大きな前進」(キリンビールの布施孝之社長)と評価する。しかし、税額を統一するまでに10年近くを要する点については、何とも不可解さが拭えない。

発泡酒、第3のビールを税収で補えるか

 確かに、一向に抜け出せないデフレ経済下にあって、生活防衛の面でも低価格が支持されてきた発泡酒や第3のビールが値上がりするとなれば、ビール系飲料全体の消費動向にも影響してくる。値下げとなるビールは復権する可能性はあるにしても、発泡酒、第3のビールを税収面で補えるまで回復できるかという確証はない。その点で、財務省の意向が見え隠れする。

 同時に、いまや税制改正でも「政高党低」を鮮明にする「一強」状態の官邸が支持率低下を懸念し、消費者の増税感をできるだけ薄めようと動いたとも取り沙汰されている。税額が3区分に分かれるビール系飲料の酒税は世界的に例がなく、日本固有のいわゆる「ガラパゴス化」の道を辿ってきた。その歪みは結果として、メーカー大手各社が区分ごとに商品開発を競い合う体力消耗戦に明け暮れた。

 さらに、大型M&A(企業の合併・買収)が相次ぐなかで世界からも取り残された。17年度改正で打ち出した税額統一は日本勢の国際競争力向上を図る観点もあっただけに、今後10年近くを費やす点に違和感も残る。ビール大手は税額統一を評価するものの、アサヒビールの平野伸一社長が一本化された際の税額は「主要諸外国と比べ非常に高い水準」と語るなど、一段の減税を求める方向で足並みを揃える。

 しかし、大手各社はそれぞれに3区分の販売比率は異なり、税額統一に対するかなりの温度差や思惑の違いも存在する。自民党税制調査会の宮沢洋一会長が「メーカーの研究開発の成果はビールに一本化される」と述べるように、各社の商品化の流れは税額統一に伴い、いずれ収斂するに違いない。これで若者のビール離れに象徴される長期低落傾向に歯止めをかけられるかは見通せず、消費者動向を睨みながらの手探りの商品開発に追われることに変わりはない。

 (経済ジャーナリスト 水月仁史=文)