(上)「劇場型」内紛 統治に波紋

回顧2016
4月、辞意を表明した記者会見を終え、報道陣に囲まれるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文CEO=東京都中央区

 ■創業家が力誇示 顧客離れも

 国内では消費税増税が再延期され、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は漂流が決定的だ。世界では英国が欧州連合(EU)離脱を決め、マーケットは大荒れとなった。大きく揺れた2016年の経済を振り返る。

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 セブン&アイ・ホールディングスや出光興産といった有名企業で、創業家側と現経営陣が表舞台で対決する「劇場型」の内紛が相次いだ。安定株主と思われていた創業家側が影響力を誇示し、企業統治の在り方に一石を投じた。

 「(創業家とは)ずっと良好な関係だったが急遽(きゅうきょ)変わった」。セブン&アイは4月、20年以上トップに君臨した鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が引退を表明した。好業績が続くコンビニ事業子会社の井阪隆一社長を退任させる案を押し通そうとしたが、後ろ盾だった創業者の伊藤雅俊名誉会長が承認を拒否し、自身が引導を渡される結果になった。引退会見は、井阪氏らへの不満をぶちまける異例の展開だった。

 5月に井阪氏をグループのトップとする新体制が発足。カリスマの経営感覚に依存した手法からの脱却を進めている。

 昭和シェル石油との合併を目指す出光は6月の株主総会で、創業家が「社風が異なる」などと反対を表明。創業者長男の出光昭介名誉会長を中心に合併を阻止する戦略を次々と打ち出した。

 石油業界は少子化やエコカーの普及で需要減少が続き、再編は「国策」ともいえるが、出光と昭和シェルは来年4月に予定していた合併時期を無期限で延期。経営陣の説明不足などでプライドを傷つけられた昭介氏らを翻意させる有効な手だては見当たらず、当面は資本・業務提携し説得を続けざるを得ない状況に追い込まれた。

 定食店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングスは、昨年7月に急逝した創業者の長男の三森智仁氏と窪田健一社長が対立。早期の社長就任にこだわった智仁氏に、窪田氏が香港赴任を内示したことなどが発端となった。

 弁護士らで構成する第三者委員会がそれぞれの言動を批判し歩み寄りを促したが、双方の不信感は根強く、企業イメージの悪化による顧客離れも懸念されている。