技術とサービスの最前線は「介護」 相次ぐ異業種参入、AIも戦力に

 
AIを活用して高齢者の転倒を未然に防ぐパナソニックの新技術の実験画像(同社提供)

 介護事業への異業種参入が相次いでいる。人工知能(AI)技術や情報通信技術(ICT)などの進展を背景に、電機メーカーや警備会社が新たな収益源にしようと新サービスをアピール。スーパーやコンビニは、既存の店舗をサービス拠点として活用している。人手不足が懸念される介護事業だが、異業種ならではの新しい視点が課題解決の糸口になるかもしれない。(板東和正)

「次世代」の介護技術

 高齢の女性がバランスを崩すと、すかさず介護士が駆け寄って支える。転倒の危険を察知したのはAI-。

 今年10月に東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展。パナソニックのブースでは、AIを高齢者介護に活用する新技術が注目を集めた。

 人間のように学習を繰り返して理解を深めるAI技術「ディープラーニング(深層学習)」をカメラに搭載。高齢者の転倒の危険性を察知すると、介護士が携帯する小型無線機に知らせる。数年後の実用化を目指しているという。

 「AIやカメラ技術を持つ電機メーカーだからこそ、実現できる介護事業だ」。パナソニックの木田祐子・エイジフリービジネスユニット総括主幹はそう力を込める。

異業種ならでは

 同社は平成10年にパナソニックエイジフリーサービス(現パナソニックエイジフリー)を設立し、介護事業に参入。兵庫、三重など14都道府県で、ショートステイ(短期入所)や日帰りのデイサービス(通所介護)を提供する介護施設18拠点を運営している。

 各施設では、次亜塩素酸を利用した空間洗浄機や、カメラやセンサー技術を応用したリハビリシステムなどの先進製品を活用。今後、AIや「モノのインターネット(IoT)」を使った次世代技術も導入するという。

 先端技術を活用して介護事業に参入するのはパナソニックだけではない。例えば、綜合警備保障(ALSOK)は、高齢者に姿勢の傾きを検知する専用端末を配布し、自宅や外で転倒するとガードマンが駆けつけ、場合によっては医療機関に連絡する有料サービスを27年6月に開始した。

中小事業者を補う大手

 異業種が介護事業に参入する背景には、市場が拡大する一方で、サービスが不足しがちな現状がある。

 日本の65歳以上の高齢者人口(9月15日時点推計)は3461万人と過去最高を更新。一方で、介護事業者の多くを資本金1千万円未満の中小企業が占めている。

 みずほ銀行産業調査部公共・社会インフラ室の高杉周子アナリストは「大手異業種の参入によって、中小にはできなかった多様な介護サービスの提供が可能になる」と指摘する。

 流通大手のイオンは東京都内や神奈川県など4カ所のスーパーで、リハビリ専用のデイサービス施設を運営。利用者は計1700人以上といい、同社は「介護の専門施設に行くより、慣れ親しんだイオンの店舗に行く方が気楽だという高齢者の方が多い」(広報担当者)と話す。

 大阪府東大阪市や広島県など7店舗で、介護の悩み相談などを行う窓口を運営するローソンも地域住民の人気を集めている。

 パナソニックエイジフリーの和久定信社長は「他社は競合相手というより、人材不足など介護の問題を一緒に解決する『戦友』だと考えている」と話す。多様な業種が切磋琢磨(せっさたくま)することで、現場の課題解決にもつながることが期待されている。