ゆっくり走る「タートル(亀)タクシー」 グッドデザイン賞受賞のタクシー会社がユニーク
乗務員の高齢化や初乗り運賃値下げの動きなど厳しい経営環境が続くタクシー業界。三和交通は柔軟なアイデアに伴う斬新なサービスを次々打ち出し、顧客と人材の獲得につなげている。成熟産業と呼ばれて久しいタクシー業界の中で存在感を高めながら、「サービスで選ばれるタクシー会社を目指す」(吉川永一社長)と意気込む。
顧客目線を重視
「ふとした思いつきがサービス向上につながる」。平成25年に始めたゆっくり走る「タートル(亀)タクシー」は、吉川社長と社員との会話で浮かんだアイデアを具現化したものだ。
タクシー利用者の中には、急発進や急加速を敬遠し、安全運転を望む人も一定の割合で存在するが、「運転手に対して『ゆっくり走って』と言いづらい」ことがアンケート結果から判明した。ゆっくりした速度での走行を望む乗客が後部座席に設置されたボタンを押すと、運転席のランプが点灯。乗務員が速度を落とすといった仕組みだ。
「タクシーは急いでいる人が利用する」とした従来の発想を覆した「タートルタクシー」はたちまち話題となり、この年の「グッドデザイン賞」を受賞した。
タートルタクシーの展開を決断した背景には、「タクシー利用者が大きく変貌しつつある」(吉川社長)ことに気付いたからだ。高齢化の急速な進展で高齢者が医療機関に通うためにタクシーを利用するケースが増加。高齢者は安全運転を望む傾向があり、そこに着目したタートルタクシーは、リピーターの獲得にもつながっている。
さらに昨年にはミネラルウオーターの車内販売を開始。今年5月からは折り畳み傘やマスクも車内販売している。これらもすべて顧客目線を重視しているからこそ生まれたサービスだ。10月からは大型犬も一緒に同乗できる「ペットタクシー」を始めた。
ユニークなのが、昨夏から始めた「心霊スポット巡礼ツアー」。乗務員の間で語り継がれている心霊スポットを案内するもので、若い女性やカップルを中心に連日盛況だった。車内からスポンジの弾を飛ばして、的当てをする「タクシー流鏑馬(やぶさめ)」を開催したり、「3億円事件」の現場をめぐる「3億円事件ツアー」も企画するなど、話題作りに事欠かないのも“売り”だ。
人材獲得で成果
これらのサービスは「すべて人材獲得につながっている」(吉川社長)と強調する。タクシー業界では人材不足が深刻だが、同社はさまざまな取り組みによる知名度向上が奏功し、今春の新卒採用では前年度比倍増となる20人を獲得することに成功した。タクシー業界では乗務員の平均が60歳代とも言われるが、同社は平均48歳と一回り以上も若い。利用者によるベテラン乗務員の有料指名制度も導入する予定だ。
今後は高齢者を中心にさまざまなニーズに対応するサービス力の向上に磨きをかける。吉川社長は「選ばれるタクシー会社になれば、需要はまだまだ高まるはず」と話している。
(横浜総局 川上朝栄)
■救援タクシー 高齢者の通院による利用が増加傾向にあることを受けたサービス。病院に診察に行く際、乗務員が受付から診察、会計まで付き添って介助し、自宅まで送り届ける。
自宅で処方箋を受け取り、薬局で薬を受け取って届けることもできる。診察を受けるまでの待ち時間を短縮するために、診察券を先に病院に出してほしい際には、乗務員が自宅まで診察券を取りに行き、代行して病院の受付に出す。
同サービスでは利用客のニーズに対応して、連絡の取れない一人暮らしの高齢者の安否確認や買い物代行なども行っており、タクシーの機動力を生かした「究極の接客サービス」として今後も活用拡大が見込まれている。
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