思いやりの気持ちでおもてなしを 岡部佳子
講師のホンネ「日本人はマナーが良くて親切だ」とよく言われる。しかし、以前のイメージが受け継がれているだけで、現状はかなり違ってきているように思う。
私が生まれ育った大阪は、かつては「人情の町」で困った人がいると、みんなが助けてくれるといわれていた。本当にそうだろうかと思っていたところ、偶然にもそれを確かめることができた。20年ほど前、大阪の一番中心といえる梅田の地下街で、コンタクトレンズを落として探している女性と遭遇した。私も一緒に探していたところ、たちまち何十人も腰をかがめて床とにらめっこ。本人は恥ずかしさと申し訳なさで逆に立ち去ってしまったほどだった。
しかし、その後上海に住んでいた頃、一時帰国をするたびに日本人のマナーが悪くなっているなぁと感じた。そして、2012年、帰国してみると改めてマナーの悪さを実感した。ぶつかっても謝らない。逆に相手からぶつかってきているのににらまれることもあった。
また、重たい荷物を持っている年配者やベビーカーを抱えて階段を上り下りするお母さんを見ても、知らん顔だ。友人に聞くと、もし手伝って荷物を壊したり、子供がけがをするようなことがあると手伝った方の責任にされるから。つまり、「触らぬ神にたたりなし」と考える人が多いのだと分かり、世知辛い世の中になったなぁと悲しい気持ちになった。
また、電車に乗ると若者が平気で優先座席に座ってスマートフォンに没頭しているのをよく見かける。
中国人はマナーが悪いというイメージを持たれている方もいるかと思う。しかし、中国では年配者や体の不自由な方、赤ちゃん連れの人を電車やバスの中で見かけるとほとんどの人がすぐに立ち上がり、譲ってもらった人はどこに座っていいのか分からないくらい。それほど弱者をねぎらい、大切にしなければならないという考え方が浸透している。
20年には東京オリンピックが開催される。世界中からインターナショナルなマナーを身に付けた人がたくさん訪れる。その時には、日本の美徳とされる本来のマナーでおもてなしをして、世界の方々からがっかりされないようにしたいものだ。
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【プロフィル】岡部佳子
おかべ・けいこ 1966年、大阪市生まれ。マナー研修講師、中国コーディネーター。外国人留学生を受け入れる専門学校では、ビジネスマナーの授業を担当する。また、国際ビジネスの分野では、10年に及ぶ上海での経験と人脈を生かし、日本と中国に橋を懸ける企業と人の支援を精力的に行っている。中国の国家職業資格である中国茶高級茶芸師の一面を持つ。
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