民泊の実態、覆面調査員が調べてみた 脇の甘さ、いくつもの問題点が明らかに
東京都大田区、大阪府に次いで大阪市で国家戦略特区の規制緩和を活用し、空き室を宿泊施設に使う民泊を認める条例が施行されるなど、民泊をめぐる動きが急速に活発化している。外国人観光客の急増に伴うホテル不足の解消につながると期待されているが、一大ビジネスとしてきちんと成立するかどうかについては、不透明な要素が大きい。
ある不動産会社は民泊の実情を探るため、2人の社員を覆面調査員として送り込んだ。宿泊したのは、民泊サービスを提供する会社が仲介する部屋だ。
このうち1人が利用したのは、東京都新宿区内のワンルームマンション。
まず面食らったのが本人認証の流れだ。要求されるのはパスポートの画像。モノクロのコピーはNGで、カラー写真が必要だった。フェイスブック(FB)などのSNSも証拠確認の材料となる。その社員はFBをまったく更新していなかったが、それでは認められなかった。このため、同社が仲介する部屋に宿泊する旨を書き込んだところ、一種の履歴書となってようやく認証された。SNSを活用するのは部屋の評価が広がっていくことを狙ったものだ。
同社のサイトにはオンライン通販「Amazon」のようにレビューが記される。その数が多いほど、たくさんの宿泊者が存在していることの証左で、貸す側のホストが最も気にする部分。このためサイトに掲載する写真はプロが撮影するケースが多く、予約してから20分以内にあいさつメールがあるなど、ホストはきめ細かな対応を行う。
もう1人が宿泊したのは東京・大久保のワンルームマンション。ホストは某ホテルのスタッフとして働いている韓国人の女性。職業柄、きめ細かな配慮を感じたそうだ。例えばテレビやエアコンのリモコンには英語が補足されていたほか、冷蔵庫の中のものは自由に食べたり飲んだりすることが可能。サービスでバナナやポテトチップスといった軽食がかごに盛り付けてあった。新宿区内の物件のホストは男性。さすがにそんなサービスはなかった。
その女性は都内3カ所で民泊を運営。いずれも転貸だ。新宿区内の物件のホストも同様の手法によって、複数の部屋を民泊用として活用している。
民泊で最も懸念されるのは、安全・安心に対する不安だ。2人の調査員は「クレジット、SNS、パスポートまで押さえられたら、なかなか悪いことはできない」と口をそろえるが、たった1泊という短い期間の中で、いくつかの問題点を発見した。
新宿区内の物件はエレベーターの防犯カメラが壊れていた。これは、管理組合があまり機能していないことの裏返し。建物内に入るにはオートロックの解錠が必要となるが、暗証番号は教えられるため、第三者に漏れる恐れがある。また、カギは「テーブルの上に置いてある封筒に入れて、玄関ドアのポストに入れてほしい」という指示。カギの複製を悪用した事件があっただけに、あまりにも脇が甘い対応だ。おまけに宿泊者はホストの行動パターンをある程度把握できる。「防犯レベルはかなり低い」というのが、2人の率直な感想だ。
宿泊者が直接手を下さないとしても、他人と連携すれば意外と簡単に違法な行動を起こせる可能性が高い。マンション全体で高度な防犯対策を施さなければ、犯罪の温床となり資産価値の低下につながる可能性もある。
民泊物件については「高い収益が見込める」という期待度が高い。しかし、思っていたより、もうかるビジネスではない。当該マンションの宿泊費はいずれも1泊1万円で、1カ月に20日間稼働したと仮定して収入は20万円。そこから賃料(約10万円)と清掃費、仲介サービス利用費などを差し引くと、手元に残るのはわずか2万円しかない。最終利益は10%だ。
宿泊した不動産会社の社員は「削りどころは清掃費とアメニティだが、ここをケチるとレビュー低下につながる恐れがある」と指摘する。また、1日の大半を部屋の中で過ごす「ノマドワーカー」などが借りたら、光熱費や水道代などが余計にかかり、利幅がさらに小さくなる。
一方、所有物件を民泊に活用すれば利幅は大きいかもしれないが、「犯罪の発生の可能性を考えると恐ろしい」というのが、今回の不動産プロの結論だ。
鳴り物入りで本格導入されようとしている民泊。しかし、市場として発展するにはさまざまなハードルを乗り越える必要がありそうだ。(伊藤俊祐)
■民泊 個人宅やマンションの空き部屋に有料で観光客らを泊めること。訪日客が急増する中、無許可営業が増加しており、国は4月から面積基準を緩和し、旅館業法に基づく許可制とした。これとは別に東京都大田区や大阪府、大阪市は「国家戦略特区」の規制緩和を活用し、民泊を旅館業法の適用除外としている。
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