すし飯にビネガー!? 海外のトンデモ和食をなくせ 関西食品メーカーが尽力
「和食」が世界中で流行する中、外国人が経営する日本料理店では伝統から外れた食材や調味料が使われることも増えている。この状況を変えようと、関西の食品メーカーが海外展開に合わせて、すしにはビネガーではなく米酢を使うことや、出汁の取り方など基本を各地で伝授している。正しい和食を定着させ、自社製品の販売強化につなげるねらいもある。(藤原直樹)
ビネガーが主流に
カリフォルニア州など米国西海岸は日本料理店の数が多く、中でもすし店が圧倒的な人気を集める。タマノイ酢(堺市)は、酢飯に使う米酢の販売強化のため2013年に同州ロサンゼルスに拠点を設置した。
ところが現地では「米酢を使っているのは日本人オーナーの店か、一流ホテルに入っているような高級店だけだった」と同社ロサンゼルス駐在の丸山鉄平さんは言う。
現地に多い中国系や韓国系のすし店では米酢の代わりに、醸造アルコールを発酵させてつくるホワイトビネガーを使うことが多かった。「酸味が強く、繊細な味は出せない」(丸山さん)が、米酢の半分ほどの価格で手に入る。
このため、同社は現地で米酢の価格をできる限り低く設定するとともに、すし店のオーナーを集めてセミナーを開催するなど「正しいすし」を伝える活動を始めている。「客はどうせ味の違いなどわからない」と話すオーナーも多いが、丸山さんは「あきらめずに地道な啓発活動を続けていきたい」と意気込む。
一方で、家庭ですしを作る人も増えていることから、ごはんに混ぜるだけの粉末状の商品「すしのこ」も輸出。スーパーなどで販売を始めた。本来の味を知る人が増えれば、すし店に対する評価も変わる可能性がある。
タマノイ酢は現地に工場がないため米酢は全量を輸出しているが、供給量増加と低価格化を進めるため、米国内で生産を委託できる企業を探している。
欧州企業相次ぎ買収
清酒、焼酎が主力の宝酒造は、欧州全域で展開する食品卸売業者としての顔も持つ。同社海外事業本部の木下勝仁副本部長は「近年は食品卸が海外事業の主力に育ってきている」と話す。
同社は10年にフランスの食品卸会社フーデックスを買収して、欧州での食品販売に参入した。13年には英国の食品卸会社タザキフーズ、14年にはスペインの食品卸会社コミンポート、16年にはポルトガルの食品卸会社ケタフーズをそれぞれ買収してきた。
欧州ではコメのほか、みそ、しょうゆ、カツオ節、昆布など和食に必要な食材や調味料のほとんどを扱っている。さらに、取引先を集めてカツオや昆布からだしをとる方法の講習会を開くなど、和食文化の普及活動も進めている。
こうした取り組みは、食品卸の事業拡大に欠かせないが、本業のためでもある。「日本料理店が増えないと日本酒の輸出拡大にはつながらない」と木下氏は話す。
カレーから豆腐に…
1981年に主力商品のカレーを販売するため米国に進出したハウス食品は、豆腐の定着に力を注いできた。
83年にロサンゼルスの下町で豆腐工場を営んでいたハワイ州出身の夫婦と合弁会社を設立。広大な米国の国土に対応するよう賞味期限を延ばす工夫を加えた。また、炒め物のような料理に加えるほか、ジュースのように「飲む」こともある米国人の幅広い需要に応えるべく、硬さも数種類選べるようにした。
現在、米国で豆腐は日本料理の一品としてだけではなく、ダイエット食品としても一般に定着。ハウス食品はトップシェアを維持し続けている。
欧米で和食は流行を超えて、ひとつのジャンルとして定着しつつあるが、本来の良さを保つためには正しい知識が必要だ。和食文化を広げるためにも、関西の食品メーカーに対する期待は大きい。
関連記事