住友と三菱、企業風土の垣根越え相乗効果 驚きのクレーン事業統合から1年
住友重機械工業が三菱重工業の産業用クレーン事業を統合し、10月で丸1年となった。昨年5月に三菱重工が黒字だった産業用クレーン事業を住友重機械に譲渡に合意、かつての大財閥「三菱」と「住友」という2大企業グループの垣根を越えた再編は業界で大きな驚きを持って受け止められた。思い切った経営判断は着実に相乗効果をみせ始めている。
ラインアップに厚み
穏やかで、波が少ない瀬戸内海に面した愛媛県新居浜市。新居浜港の一角に住友重機械搬送システムの工場がある。広大な敷地には、巨大クレーンを製造するための加工・塗装・組立工場、鋼材を船に積み込むジブクレーンが立ち並ぶ。
新居浜工場は1888年に住友家が保有する別子銅山の採鉱用クレーンを製造するために設立された。産業用クレーン事業は住友重機械の祖業だ。
造船所の荷吊(つ)りで使う幅200メートル、高さが100メートル級の巨大なゴライアスクレーンは国内で新居浜工場でしか製造できない。130年近く稼働し、日本の産業用クレーンの技術が蓄積された工場ともいえる。
この歴史ある新居浜工場に昨年10月、三菱重工マシナリーテクノロジー(広島市西区)の産業用クレーン事業が引っ越し、120人の社員が転籍した。社員の多くは週末に車で、しまなみ海道を渡り、3時間かけて家族が待つ自宅に帰宅する。
三菱出身で統合準備を進めた住友重機械搬送システム戦略企画グループの園部太之グループリーダーは「最初に話を聞いたときはかなり驚いた」という。産業用クレーン事業は毎年、堅実に黒字を出す優等生だったからだ。
住友出身の住友重機械搬送システム生産部の辰巳圭一部長も「製鉄所向けクレーンでは、いつもライバル同士で、企業文化が違う三菱系との統合は全く考えられなかった」と振り返る。
事業統合を後押ししたのは三菱重工の宮永俊一社長だ。同社は「中小企業の集合体」と呼ばれるほどさまざまな事業を抱え、製品数は一時700まで膨らんだ。2013年の社長就任以降、事業の「選択と集中」を進め、再編を加速。産業用クレーン事業の譲渡を決めたのは、両社の強みが融合され、競争力が強化されると判断したためだ。
実際に住友重機械が強い造船所向けのゴライアスクレーンやジブクレーンと、三菱が得意な港湾荷役用のコンテナクレーンや発電所向けの揚炭クレーンの組み合わせで、ラインアップの厚みは増した。技術面では当初、ものづくりの方法が異なり、戸惑う場面もあったというが、今では住友重機械の高度な加工・溶接技術と三菱の自動化技術とサプライヤーの活用力を組み合わせ、市場での競争力強化に取り組んでいる。
売上高6割増見込み
今後の経営戦略では、幅広いラインアップを生かし、需要に応じて、柔軟に事業構成を組み替えながら、安定的に利益を稼ぎ出す方針だ。同時に海外市場の開拓にも力を入れる。統合効果で、今年度の売上高は14年度比6割増の500億円を見込んでいる。
ものづくりに不可欠な産業用クレーンは、日本の近代化や戦後の経済発展に大きく貢献してきた。園部グループリーダーは「住友と三菱の統合で着実に技術を継承し、さらに強い事業に育てたい」と話す。
日本経済を支えてきた重工業もグローバル化が進展し、今ではコスト競争力の高い中国や韓国メーカーとの受注競争が激しくなっており、技術を日本に残すには再編・統合による競争力の向上が欠かせない。
住友重機械と三菱重工の産業用クレーン事業の統合は規模は小さいものの、伝統や企業風土の違いを乗り越えて成功すれば、他の産業分野の再編の決断を促す可能性もある。(黄金崎元)
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