日系企業、アジア人留学生の受け入れ増加 海外展開の主戦力期待

 
ASIALink主催の合同就職マッチング会「社長LIVE」。企業12社・留学生95人が参加した=3月4日、東京・両国

 中国や東南アジアからの技能実習生や留学生を積極的に受け入れる中堅・中小企業が増えている。しかも労働人口の減少による働き手不足を補うための安価な労働力としてではなく、今後の海外展開に不可欠な現地の中核人材に育てるのが狙いだ。日本での就職を希望する実習生・留学生も、日本の生産方式や経営手法を学んで将来の起業に備えるという高いモチベーションの持ち主が多く、両者の思惑が一致する。企業の外国人採用支援に特化した紹介ビジネスを展開する企業も現れた。

 清掃FC展開に布石

 「日本で学んだことを帰国して母国で生かしてほしい」

 ビルメンテナンスなど環境衛生事業を手掛けるアイ・ビー・エス(川崎市中原区)の矢野智之社長は、来年4月採用予定のミャンマー人実習生にこんな期待を寄せている。

 ラストフロンティアといわれるミャンマーのヤンゴンに今年6月、市場開拓を狙って現地法人を設立した。まずは現地に進出した日系企業に清掃サービスを提供するが、将来のフランチャイズ展開などを踏まえ清掃員への教育を開始。同時に実習生を受け入れ、「においや細菌といった『目に見えない』ものまで取り除く」同社独自のノウハウを習得させ、現地で環境衛生ビジネスを任せられる人材に育て上げる。

 同社が実習生を受け入れるのは初めて。思い通りの人材を採用できるか不安の中、選考を任せているのがアジア人材を日本企業に紹介するPeople Worldwide(東京都港区)だ。

 2014年6月創業の若い企業だが、松崎みさ社長は「人口減少と高齢化で外国から働き手を連れてくるしかない。市場性があると判断して立ち上げた」。

 折しも15年から弁当などの総菜製造業、16年からビルメンテナンス業と自動車整備業が実習生の受け入れ先職種として追加され、顧客が増加。ミャンマーやフィリピン、ベトナムを中心に100人強の人材を約20社に送り込んだ。

 人材マッチングを成功に導いているのが同社の研修制度。採用が決まってからビザ取得までの間、日常会話はもちろん、受け入れ先の職場で使う専門用語やビジネスマナーを学ばせ、即戦力として送り出す。

 実習生はもともと、「家族を支えるため」「将来起業するため」など働く目的をもって来日する。このため「仕事が合わないからといって辞めることはない」と小松原亮マネージャーは指摘する。しかも3K(危険、きつい、汚い)職場を嫌うこともなく、深夜勤務も苦にしないという。

 埼玉県の大手ハウスメーカーで昨夏から働くミャンマーからの実習生は「手取り10万円強の月給のうち、8万円を家族の生活の足しと母国で将来、ビジネスを起こすために送っている」と話す。起業を目指し「親切に教えてくれる仕事を覚える」毎日だが、同時に実感した「日本人はよく働くし、時間などルールに厳しい」ことを母国でのビジネス展開に生かすという。

 留学生を新卒採用

 新卒採用の一環として留学生をターゲットに据える企業も出てきた。

 機能性フィルムや粘着シールなどを生産するコスモテック(東京都立川市)は必要に応じて留学生を採用している。高見沢友伸社長は「日本文化や習慣をよく知っているので、会社にも仕事にもなじみやすい」と指摘する。その上で「海外進出先の文化・商習慣を知り、ビジネス言語も翻訳できる」と受け入れメリットを強調。留学生を海外進出には欠かせない戦力と位置づける。

 同社は顧客の中国進出に伴い02年11月に江蘇省蘇州に工場を設立した。それに先立って採用した中国人留学生が日本人責任者の右腕となって動き回った。その後も中国人脈を構築し現地メーカーの開拓に成功した。その活躍ぶりが認められ蘇州工場の総経理(社長)に抜擢(ばってき)され、コスモテックでは唯一、社員から取締役にまで上り詰めた。

 今では売り上げの75%を中国が占めるため、中国人留学生を13年、14年と続けて採用した。

 このときに利用したのが留学生専用の人材紹介を手掛けるASIA Link(東京都小平市、11年10月開業)。同社主催の合同就職マッチング会「社長LIVE」に参加して採用を決めた。

 今年は3月4日に開催、留学生の採用に意欲的な企業12社と日本で働きたい留学生95人が参加した。採用にかける熱い思いを語る社長に対し、留学生はキャリアパスや待遇などについて質問。9社・15人が意気投合し内定が決まったという。

 企業と学生の交流をみながら小野朋江社長は「海外に拠点を持つ中堅・中小企業が人手不足というより、海外事業を拡大するため留学生を求めている」と話す。このため日本の企業文化を数年学ばせた後、現地拠点のリーダーとして派遣。将来は中核人材として活躍を期待する。一方で、留学生の多くは日本で働きながら、日本の先進的な生産方式などジャパンクオリティーを身につけ、「故郷に錦を飾る」考えだ。同社に登録する留学生は2300人に達する。

 活躍サポート必要

 人口減少による内需縮小をにらみ海外を目指す中堅・中小企業は増えている。しかし言葉の壁、商習慣の違いなどから現地事情に詳しい人材の確保が不可欠。このため留学生や実習生を求めるようになった。ジャパンクオリティーを習得させて現地に派遣すれば課題は一気に解決する。

 ただ出世に限界を感じたり、異文化を受け入れられず離職したりする外国人もいる。実習生を受け入れる企業の中には、賃金や労働時間について労働基準関係の法令が適用されることを知らないところもあるという。

 松崎氏は「最低賃金や残業代の支払いなどで『外国人だから』は認められない。紹介する企業には労働コンプライアンスを求める」と言い切る。外国人採用がダイバーシティ(多様性)に有効なことも踏まえ、小野社長は「外国人が活躍できるように日本企業も変わるべきだ」と強調する。