爆買いバブル崩壊の“落とし穴” ラオックス、百貨店…積極策が完全に裏目

提供:PRESIDENT Online

 爆買いバブルの象徴的存在ラオックス銀座本店

 中国からの訪日観光客による「爆買い」効果が剥げ落ち、インバウンド消費の取り込みに戦線を拡張してきた企業に大きな衝撃を与えている。それを最も象徴するのはラオックスで、2016年12月期の業績見通しは8割の営業減益、35%の減収と大幅な下方修正を余儀なくされた。

 同社は経営危機に瀕し、09年に中国小売り大手、蘇寧雲商集団の傘下に入り、その後、家電量販店から免税品販売に業態転換し、折からの爆買いバブルに乗り、急激に業績を伸ばした。店舗数も今年6月末時点で41店と前年から17店増やした。旗艦店であるラオックス銀座本店(東京都中央区)は観光バスで大挙押し寄せる中国人観光客の定番コースとなり、まさに爆買いバブルの象徴的存在だった。

 しかし、中国経済の減速と円高に加え、中国政府による個人輸入に対する規制が重なり、中国人観光客による爆買いバブルが弾けると、積極策が完全に裏目に出てしまった。

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 実際、16年6月中間期は売上高が前年同期比22%減の350億円と2桁の減収に見舞われた。さらに積極出店に伴う固定費増と中国での店舗閉鎖による特別損失を計上した結果、最終損益は4億6400万円の赤字に転落した。

 羅怡文社長は「昨年は祭りのようであって、いまが通常」と強気の姿勢は崩さない。だが、7月下旬には開業半年ほどしか経っていない札幌市と鹿児島市の店舗を閉鎖し、“宴”の後の戦線見直しを余儀なくされている。

 爆買いバブル崩壊による衝撃は同社に限らない。東京や大阪の都心部の店舗を中心に爆買いで潤ってきた百貨店も大きな打撃を受けている。全国百貨店売上高(既存店ベース)は7月まで5カ月連続して前年実績を割り込んだ。

 さらに、7月は訪日客向けの免税売上高が前年同月比21%減で4カ月続けて前年割れとなり、客単価も30.5%減と大幅に下落し、爆買いバブル崩壊のショックが色濃く表れた。

 数を追うだけの政策はいずれ壁にぶち当たる

 これを裏付けるように、内閣府が8月15日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値で、訪日外国人観光客消費は前期比4.5%と3年半ぶりにマイナスに転じた。購買品の中心が爆買いの象徴だった宝飾品や腕時計といった高額品から化粧品や医薬品、日用品など価格の低い消耗品に移行していることも、爆買いが沈静化している要因となっている。

 消費財メーカーもこの影響を受け、国産時計大手の収益を大きく圧迫している。シチズンホールディングス、セイコーホールディングス、カシオ計算機の3社の4~6月期はいずれも営業利益が前年同期から2桁の減少に追い込まれ、シチズンHDは17年3月期通期の最終利益見通しの下方修正を迫られた。インバウンド消費に過剰な期待を寄せてきた関連業界は思わぬ“落とし穴”にはまってしまった。

 政府は20年に2000万人を掲げた訪日外国人観光客の目標の年内達成が確実となったことから目標を一気に4000万人に倍増し、「観光先進国という新たな高みを実現する」(安倍晋三首相)とインバウンド需要拡大を成長戦略に位置付ける。

 確かに、7月の訪日外国人観光客は前年同月比19.7%増の229万7000人と月間として過去最多を更新し、増勢を維持している。20年開催の東京オリンピック・パラリンピックの効果も十分期待できる。

 しかし、円高基調の定着もあり、この勢いがこのまま維持できるかは不透明だ。さらに爆買いが鳴りを潜め、さらにインバウンド消費も「モノ」から「コト」に移行するなど変質を遂げており、数を追うだけの政策はいずれ壁にぶち当たる可能性は否めない。

 (経済ジャーナリスト 水月仁史=文)