TDR、ライバル上海開業も絶好調 中国客争奪「おもてなし」で商機
東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドの業績が、6月の上海ディズニーランドの開園という「逆風」にも関わらず好調だ。上海に顧客を奪われるといった懸念が一部であったが、訪日外国人の来場は衰えず、今年度の入園者数は2年ぶりの増加を見込む。中国人の「爆買い」に陰りは見えるが、日本流のおもてなしで、実体験にお金を使う“コト消費”を喚起している。
「影響なし」増収増益
東京、香港に次ぐアジアで3番目となるディズニーランドが6月16日、中国・上海に開園。開園に先立ち開かれた式典で汪洋副首相は、「中国の旅行産業のレベルを引き上げる」と強調し、テーマパークの集客による経済活性化に期待感を示した。
公式サイトによると、アトラクションの数は24にのぼる。週末や休日、夏の繁忙期の大人の入場料は499元(約7600円)。
上海市によると、総投資額は約340億元。経済効果は年間約300億元に上るとの試算もある。ただ日本側では、上海ディズニーランドに中国人がお金を落とせば落とすほど、「TDRでお金を使っていた中国人が減るのでは」といった懸念が一部にあった。
しかし、TDRの幹部は「上海の影響はない」と、強気の姿勢を崩さない。
実際、TDRを運営するオリエンタルランドの2016年4~6月期の連結決算は、売上高が前年同期比3.6%増の1069億円。最終利益も4.9%増の162億円と、増収増益だ。蓋を開けてみれば、上海ディズニーランドの影響はみられない。
4~6月期の来場者数の詳細は公表していないが、前年同期と「ほぼ同様」という。上海ディズニーランドの開園後も訪日外国人は減っていないもようで、今年度の来場者数は3040万人と、前年度比で7%増を見込んでいる。
東南アジア客も視野
上海ディズニーランドの開園後も衰えないTDRの人気の秘密は、徹底した「おもてなし」のサービスだ。
園内では常に清掃員が歩き回り、ごみをほとんど見かけない。そればかりか、清掃員までがエンターテインメントの一部となる。掃除をしながらモップで地面にミッキーなどのキャラクターを描く独自のサービスは、米国本土に逆輸入されたほどだ。
大規模な施設を建設しなくとも、何度も足を運ぶリピーターを飽きさせない戦略も取り入れている。
「わー、やったー」。東京ディズニーランド(TDL)内の路上に、映画「トイ・ストーリー」でおなじみのキャラクターが突然登場。すると、そばにいた子供たちが歓声を上げ、一緒にゲームに興じ始めた。
TDLは、こうした園内の雰囲気を盛り上げる路上パフォーマンスや小規模なショーを、手を替え品を替え導入している。
また、外国人を積極的に取り込もうと、今年3月から待ち時間が少なくアトラクションに入場できる「ファストパス」やホテルの宿泊などがセットになった商品の販売を開始。さらに、これまで場内の地図は日本語以外では英語、中国語、韓国語で作成していたが、4月からはタイ語とインドネシア語を加えた。
こうしたきめ細かいサービスが奏功し、15年度の訪日外国人は45%増の2135万人に達し、今年度も増える見通しだ。
■顧客流入期待 課題は価格・円高
翻って、上海ディズニーランドはどうか。
上海ディズニーランドが開園した6月16日。あいにくの雨の中、湖北省から来た40歳代の女性は、「一部の観光客のマナーが心配だ」とため息を漏らした。この日は入場ゲート近くの植え込みで親が男児に用を足させたり、ビニール製の雨具を芝生の上に捨てたりする客の姿があった。その他、乗り物に空のペットボトルを残したまま降りる人や、喫煙場所以外でたばこを吸う人などなど…。こうした日本では見かけないようなマナーの悪さに、中国人も眉をひそめる。
運営面でも問題がありそうだ。入場前にインターネットで予約したはずの入場券をなかなか受け取れず、いらだった客が警備員に食ってかかる場面もみられた。
おなじディズニーランドでありながら、運営や顧客のマナーなど違いは大きい。このため、TDRの関係者は、上海と顧客を奪い合うどころか、「中国でディズニーの楽しさを知った人が、TDRに遊びに来てくれるのでは」と期待する。
05年に香港ディズニーランドが開園した際は、翌年度のTDRの来場数が前年度比で4%増加し、その後も増加傾向をたどった。TDRは上海や香港にはない、海をテーマにした東京ディズニーシー(TDS)という武器もある。「ディズニーの認知度が中国で高まれば、長期的にはTDRの業績にプラスに働く」(証券アナリスト)との見方は多い。
ただ課題はある。価格だ。4月には大人1人の1日券で500円値上げし、7400円とした。値上げは3年連続。円高傾向が続けば、来場者数の増加を牽引(けんいん)してきた訪日外国人への影響が大きくなる。
度重なる値上げでも「また来たい」と思わせるような不断の努力が、TDRには一層求められる。(大柳聡庸)
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