訪日医療ツーリズム「最高級」提供 オーダーメードで1人数百万円
【JAPAN style】医療ツーリズム(下)
初日は成田空港に到着してから東京・銀座や浅草に向かい、翌日は箱根で露天風呂に入る。3日目は京都と大阪を巡り、4、5日目は大阪の病院「聖授会」でPET(陽電子放出型撮影法)検診を受け、6日目に関西空港から帰国-。
日本旅行(東京都中央区)が扱う「PET検診ツアー」の基本プランだ。訪日外国人観光客に人気のゴールデンルートを巡りながら五つ星クラスのホテルに宿泊し、ミシュラン三つ星店で食事を堪能する。費用は日本の地上手配部分で80万~100万円が標準(検診費用は別に約50万円かかる)という。
年100人前後が利用
訪日医療ツーリズム推進室の青木志郎室長は「あくまでも標準的なコースだが、医療ツーリズムは定番のコースを売るのではない。医療をメインとして、それに付随した最高級の宿泊、食事、交通をオーダーメードで提供する」と強調。「特に中国人は食事に手を抜かないので直接予約に行くこともある」と笑う。
検診ツアーには経済的に裕福な中国人が多く、検診の前後に訪れる場所として夏は北海道が人気。中国映画「非誠勿擾(邦題・狙った恋の落とし方)」の舞台となった釧路や阿寒湖など道東がブームという。移動は専用車やファーストクラスを使い、通訳もつく。1人当たりの費用は数百万円に達するが「親切、丁寧、施設もいい」と納得して帰国すると、数年後にはまたツアーを利用してくれるという。
同社が医療ツアーに乗り出したのは2009年4月。中国の旅行会社「優翔国際(ラビオン)」と提携し、富裕層を対象に、聖授会OCAT予防医療センターでのPET検診と観光を組み合わせたオーダーメードツアーを始めた。最初の年は49人、10年は過去最高の268人が参加した。「PET検診で来日する」ブームの火付け役となり、その後も年間80~100人強が利用している。
富裕層相手のビジネスだけにもうけたい旅行会社が続々と参入し、価格競争に突入した。しかし「富裕層は安全・安心・正確という医療の質を求めてくる。加えて高度な手配能力が必要。手間がかかるので、安定的に収益を上げられるほど甘くない」(青木氏)ことが分かると撤退が相次いだ。
病院は手間いらず
JTBは10年から、中国人を中心にオーダーメードの医療ツーリズムを提供している。参加者は増加傾向を示しており、15年度は前年度比20%増えた。この間、中国で北京、上海、広州に拠点を構え、日本では100超の病院と提携した。
JTBグループで医療周辺サービスに限定して事業展開するジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンターの高橋伸佳センター長は「中国などからの医療渡航者は有名な医師とブランド病院、最新機器による高度医療を求めて来る。ニーズを聞いて対応する必要がある」と話す。
このため、現地からの問い合わせに対する病院の紹介、セカンドオピニオンの取り次ぎ、医療滞在ビザなど医療渡航に関する情報提供から、医療サービスを受けた後のフォローまでトータルで応えるという。
こうしたサービスを提供する医療渡航支援企業の存在は、受け入れる病院にとっても大きい。聖路加国際病院の原茂順一・人事課マネジャーは「外国人患者の受け入れは煩雑で、見積もりも面倒。問い合わせから治療に至る割合は10~15%と打率は低い。支援企業に任せると100%になる。患者の医療情報も欲しいものを持って来てくれる」と評価する。手間いらずで治療に専念できるうえ、商品づくりなどの相談にも応じてくれるという。
渡航支援・受け入れ態勢まだ不十分
医療周辺だけでなく、来日する医療渡航者が不安に感じるのが言葉の問題だ。来日から帰国までの生活にも不安がある。だからこそ政府は、医療渡航支援企業を認定して医療渡航者の懸念の払拭に努めている。
その一社が日本エマージェンシーアシスタンスで、空港への送迎から宿泊、滞在中の生活面での支援まで外国語で丁寧に対応する。国際医療事業部の辛●主任は「病院に連れて行って終わりではない。安心して滞在できるよう24時間対応が基本。深夜でも呼ばれるとタクシーを飛ばして宿泊先まで行く」とフルサポートぶりを強調する。
サービスが認められて、これまでに44カ国から1000人を超す患者を100超の病院に紹介した。
外国人患者の医療渡航をコーディネートする支援企業の活躍が医療ツーリズムの拡大に不可欠だが、日本には2社だけだ。対外的な信用力をつけるまでにはいかない。一方で、受け入れる病院の経験・ノウハウも不足している。そこで政府は外国人患者の受け入れに熱心な病院のリストを「日本国際病院」として海外に発信することにし、昨年、成長戦略に国際病院構想を盛り込んだ。
日本の先進医療を求める中国やロシアなどの富裕層を呼び込み、医療サービスだけでなく、観光も組み合わせるビジネスが広がれば経済成長につながる。政府と病院、旅行会社などが連携して医療ツーリズムを盛り上げようとしている。(松岡健夫)
●=晶の三つの日を金に
関連記事