「森を守り、森を育てる製紙会社へ」 資源循環型経営進めるインドネシアAPP

 
スマトラ島リアウ州にあるAPPが自社管理する広大な植林地(長谷川周人撮影)

 輸入製品の増加による紙類市場のグローバル化が進んでいる。技術刷新による品質向上や管理体制の強化と、広大な植林地が実現する資源循環型経営が両輪となり、海外勢が市場競争力を高めているためだ。その実情を東京都の6倍に相当する140万ヘクタールの植林地を管理し、世界最大級の生産能力を誇るインドネシアのアジア・パルプ・アンド・ペーパー・グループ(APP)の生産拠点で取材した。(インドネシア・スマトラ島リアウ州 長谷川周人)

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 「APPの植林は大きな社会貢献でもある。森の保護・再生による生態系の維持は、次世代に向けたわれわれの責務であり、APPとともに植林を進めたい」。8月4日、APPの最大拠点となるインドネシアのスマトラ島リアウ州で植樹イベントを行われ、席上、日本環境ビジネス推進機構の神谷光徳理事長がこう呼びかけた。

 横浜に本部を置く国連条約機関、国際熱帯木材機関の造林・森林系担当事業部長、マ・ファンオク博士も、熱帯林の持続可能な経営を促すため、APPに組織協力する方針を確認。植樹事業を加速させる重要性を訴え、地元の学生や日本から参加したボランティアたちと現地に自生するフタバガキ科の苗木を植樹した。

 APPがこうして日本や国際機関と植林事業の連携強化を図るのは、過去の苦い経験を踏まえ、自然林伐採をやめ、森林や生物多様性の保全に配慮した21世紀型の総合製紙メーカーへの脱皮を目指しているからだ。

 インドネシア最大の財閥、シナルマス・グループ傘下のAPPは、成長の過程で順法的に原料にしてきた過去があるが、これが森林破壊に加担したと、環境保護団体による批判の標的になってきた。しかし、持続可能な開発の実現には、資源循環型経営が不可欠と判断。2012年に自然林伐採ゼロを目指す方針を決め、翌13年には自然林伐採の即時停止を宣言した。

 「森を守り、森を育てる製紙会社へ」を合言葉にAPPは、14年に開かれた国連気候変動サミットにも参加。製紙業界では唯一の民間企業として招かれ、気候変動対策における森林の重要性を確認した「森林に関するニューヨーク宣言」に署名した。

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 ■評価高める「1万本植樹プロジェクト」

 ただ、深刻な貧困問題を放置して、違法伐採を根絶することは不可能だ。インドネシアでは貧困層が違法伐採を繰り返し、生活費を稼ぐという悪循環が長く定着してきた現実がある。このためAPPは農業による地域コミュティ発展支援活動を推進。対象は5年間で500村落に広げて地元経済の底上げに努め、持続可能な資源循環型経営の実現に向けて動き出した。

 自然林の保護・再生支援の拡充にも乗り出しており、同社のステークホルダー・エンゲージメント担当部長、ネグラサリ・マルティニ氏は「森林保護にはさまざまなステークホルダーの支援と協力が必要だが、森林の保全と再生の取り組みにあたり、すでに多くのステークホルダーと覚書を交わした」という。

 この計画の延長線上で、8月上旬の植樹イベントが象徴する日本と進める植林活動も始まった。植物生態学では世界的権威の宮脇昭・横浜国立大学名誉教授が14年、「9000年続く命の森をインドネシアから世界に発信しよう」と、外来種ではない土地本来の樹種を育てようと提唱。この呼びかけが発端となり、APPは自生種による「1万本植樹プロジェクト」をスタートさせた。

 持続可能性サイクルを目指すこうした取り組みに対し、APPに批判的だった環境団体なども一定の理解を示し、今年6月にタイで開かれたアジア生産性機構(APO)が主催するエコプロダクツ国際展では大賞を受賞。国際社会における評価も高まっている。

 今回の植樹イベントに大阪からボランティア参加した森本一央さんは、「植樹は努力の積み重ねが大切。まして資源が枯渇する日本の企業は、インドネシア企業の取り組みに学ぶべきところが多いのではないかと思った」と話している。